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無双するディアナ

お待たせしました。今度こそディアナの無双回です。

ディアナが進み出た先には、対戦相手のランベルトと、審判を務める身体強化魔法担当の講師ハインツが立っていた。

ランベルトは紫色の長い髪に褐色の肌、そして濃い紫色の瞳を持つ、すらりと背の高い男子学生であった。


「キミが噂に聞くディアナだね、ボクはランベルトだ。よろしくね」


ランベルトとは初対面だったが、流石に色々と名を残しているディアナのことを知っているらしく、彼は白い歯を浮かべ人懐っこく微笑みながら右手を差し出した。


「ディアナ。よろしく」


ディアナも右手を出して握手を交わしたが、相変わらず初対面の相手には素っ気ない態度を取っていた。

そんなディアナの態度を、ランベルトは緊張していると勘違いしたのか、にこやかに笑いかけながら話しかける。


「緊張しているとせっかくの可愛い顔が台無しだよ。勝敗に関係なくこの試合が終わったらデートしようよ。アルブレヒトブルクを案内してあげるよ」


決勝戦を控えているにもかかわらず、ランベルトは軽い調子でディアナを誘った。

女性に対して当たり前のように声をかけるのはいつものことのようで、審判のハインツも「またか」とうんざりした様子で溜息を吐いていた。


「ん? 遠慮する」


「あらら振られちゃったかな。でもキミのことは気に入ったよ。ボクが勝ったらぜひ付き合って欲しいな」


ディアナの塩対応にも、ランベルトはまったく気にした様子を見せず、ニコニコした笑顔を浮かべたまま配置についた。軽く溜息を吐いたディアナも、遅れて開始位置へと移動していく。

二人の目の前には、人の上半身を模した灰色のトルソーが、一直線に二十五体ずつ二列に並んでいた。トルソーは対物・対魔法処理が施された訓練用で、軽く切りつけたり弱い魔法程度では傷すらつかない。

アングリフは、並んだトルソーに向かって、決められた魔法を放ち、一発で何体破壊できるかを競う競技である。破壊できたトルソー一体につき一ポイントが加算され、最終的にポイント数の多い方が勝利となる。


『いよいよアングリフの決勝が始まります。決勝では四属性をそれぞれ順番に放っていきます。一回戦は火属性、二回戦は風属性、三回戦は土属性、そして最後四回戦は水属性。合計ポイント百点の最高得点を目指して競います。

ちなみに十年前に叩き出された九十一点が、アングリフの歴代最高得点。得点者は現役の王宮魔法師ドミニク様が叩き出しました』


進行役の学生が観客に向けて、簡単に試合の流れを説明する。

準決勝まではランダムに選ばれた二属性の魔法の威力を競っていたが、決勝では属性が四種類に増え、一種類ずつ四回魔法を放ってその合計点を競う形式となる。

決勝では得意な属性でどれだけ高得点を獲得できるかも重要だが、四属性万遍なく得点を上げることも求められる。

イリーナは頬に手を当て、心配そうにディアナを見ていた。


「なかなか大変そうな競技ね、ディアナさんは大丈夫かしら?」


彼女やベルンハルトは、クラリッサと違って魔法を使うことはできなかったが、四属性全てで高得点を重ねる大変さは理解していた。


「ディアナさんの得意な属性はあるのかい?」


「一応水属性らしいですが、今はそれほど苦手にする属性もありませんわね」


「ほう、それは凄いじゃないか!」


ディアナがもっとも得意とするのは水属性だが、クラリッサの言うように苦手とする属性はなく、全ての魔法を使うことができた。

クラリッサも全属性が使えるが、最も適性が高いのは風属性の魔法だ。彼女は全属性が使えるものの、土属性への適性が低いため、土魔法は残念ながら初等級程度しか使えなかった。そうかと思えば、ディアナの母であるヘイディは、若くして天才と呼ばれ全属性に適性があり、全ての属性を高いレベルで使うことができた。にもかかわらず、適性があっても攻撃魔法はまったく使うことができないという極端な例もある。

全属性を使える者は珍しくないが、それを万遍なく高いレベルで使えるとなると使用者はかなり絞られてくるのだ。


「水属性が四回戦だから、三回戦まで相手に点数をそれほど離されなければ、逆転の可能性はありそうだね」


「そうね。楽しみだわ」


ビンデバルト夫妻が語り合う。

優勝候補相手との争いとなる決勝戦だ。普通に考えればそういう展開が理想だろう。だがクラリッサは両親の話に頷きながらも、まったく違った展開になるのかも知れないと考えていた。


「始まりますわっ!」


クラリッサが競技場を指差すと、夫妻も緊張した様子で視線を競技場に向けるのだった。競技場ではランベルトが杖を構え、魔力を練り上げ始めていた。


『お待たせしました。アングリフ決勝一回戦火属性、中級の攻撃魔法で威力を競います。まず先行はフェーニックス寮ランベルト選手です!』


紹介が終わると同時に、ランベルトが魔法を放った。


炎の投槍(フランメシュペアー)!」


彼の杖から螺旋状の赤い炎を纏った槍が打ち出され、一直線に的を次々と打ち抜いていく。


『こ、これは最初から素晴らしい記録が出ました! ランベルト選手一回戦の記録は二十二点です!』


その結果を受けて観客席から黄色い声援が降り注ぎ、ランベルトは両手を挙げてその声援を浴び、酔ったようにうっとりとした表情を浮かべていた。

クラリッサは嫌悪感を隠そうともせず顔を歪めた。


「実力は認めますけれど、……なんだか気持ち悪いですわね」


観客席でもランベルトを応援する女性以外は、概ね彼女と似たような反応だ。

ベルンハルトは苦笑を浮かべ、そわそわしながら競技場を指差した。


「それより、いよいよディアナさんの番だよ」


競技場では今まさにディアナが杖を構えるところだった。


『一回戦火属性魔法対決は、続きましてアインホルン寮ディアナ選手です! 今大会初出場となるディアナ選手、一体どの程度の実力があるのでしょうか!?』


入学早々に歴代魔力量を塗り替え、一年生で魔力循環をすでにマスターし、身体強化魔法で学生の前でデモンストレーションをおこなうなど、何かと話題に上っていたディアナだが、魔法の実力はいまだ未知数だ。また、寮対抗戦直前に魔力の変質によって、ヴェットカンプの代表メンバーから落選したことで、アインホルンの学生以外では、彼女の実力を訝しむ者が大半だったのだ。


炎の投槍(フランメシュペアー)


そんな空気の中、ディアナは気負った様子もなく魔法を放つ。

その途端、観客席がざわつき始めた。


「何だあれ?」


ディアナが顕現(けんげん)させた魔法は、確かにランベルトが放った炎の投槍と同じものだ。

しかし中心部の炎でできた槍は白に近く、さらにその槍が纏う炎も青白く螺旋を描いていた。まったく同じ魔法だったが、先ほどランベルトが放ったものよりもはるかに高温となっていた。

杖から放たれた魔法は、まるで障害にならないかのように的の真ん中を次々に射貫いていく。心臓に当たる中央部を貫かれたトルソーは、順番に発火し炎に包まれた。そして最後の的を貫いた魔法は、そのまま後方にある防御壁に着弾してようやく消えた。

トルソーとは比べものにならないほど強力な対魔法処理を施されていた防御壁だったが、ディアナの魔法が着弾した箇所は、高温に晒されガラス状に溶けていた。

ディアナのとんでもない威力の魔法を目の当たりにした観客は言葉を失っていた。


『……ディ、ディアナ選手。に、二十五点。……なんと、いきなり満点が出ました!』


興奮した進行の学生が叫ぶようにディアナの得点を告げると、会場は一瞬の静寂の後、どよめきと信じられないといった観客の声で満たされた。

対戦相手のランベルトもまた、その驚異的な結果に呆然と立ち尽くし、まるで時間が止まったかのように微動だにできなかった。


「ちょっと魔力を込めすぎた」


待機場所に戻ったディアナは、水筒に口を付けて喉を潤しながら、何事もなかったかのように呟いた。その言葉に、付き添いのブルーノは眉をひそめる。


「ちょっとじゃねぇだろ!」


ブルーノが呆れたように突っ込むと、ディアナは悪戯っぽく舌を出し、「緊張して魔力量を間違えた」と弁解した。しかし、その表情からは一切の焦りも反省も見られない。むしろ、どこか楽しんでいるようにも見えた。


「だけど、ランベルトの顔見てみろよ」


ブルーノに促され、ディアナは競技場に視線を向けた。ランベルトは未だに目が零れ落ちそうなほど大きく見開かれ、口もだらしなく開いたままだ。


「このまま圧勝してこい!」


ブルーノの激励に、ディアナは力強く頷いた。


「オキドキ!」


ブルーノから送り出されたディアナは、その後も驚くべき集中力と圧倒的な魔力で満点を積み重ねていった。

二回戦の風魔法では、極太の空気の奔流を生み出し、標的のトルソーをまるで刃物で切り裂くかのようにズタズタにした。その威力は観客を再び驚かせ、ランベルトの顔からはさらに血の気が引いた。

競技が進むにつれて、あまりにもかけ離れた実力差に、ランベルトは心をへし折られたようだった。集中力を著しく乱し、その後の得点は見る見るうちに伸び悩んでいった。

そして三回戦の土魔法では、まるで精密機械のように、錐のように細く回転する岩の弾丸を放った。その弾丸はトルソーに一直線の完璧な穴を開け、その正確さと破壊力に観客席からはため息が漏れた。


『出たぁ! ディアナ選手、これで三連続満点だぁ! この結果、次の四回戦で六点以上を出せばディアナ選手の勝利が決まります! 対戦前、ここまでの圧勝劇を一体誰が予想したのでしょうか? 二度目の優勝を狙ったランベルト選手、残念ながら優勝は非常に難しくなりましたが、最後まで頑張って欲しいところです。

そして注目は次のディアナ選手の水魔法です。果たして前人未踏の満点(フルスコア)で優勝を飾ることができるのか!? 注目の四回戦はこの後すぐ。請うご期待ください!』


実況の興奮した声が会場に響き渡った。

いきなり度肝を抜かれた観客も、ディアナの圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにするうちに、徐々に彼女への歓声へと変わっていった。そして今、彼らの視線はただ一つ、前人未踏となる満点、すなわち全種目満点達成という偉業に注がれていた。

会場は一種異様な緊張感に包まれ、逆にシーンと静まり返っていた。皆が固唾を飲んで、歴史的瞬間を待っているようだった。


「いよいよ最後だ。きっちり満点で帰ってこい!」


ブルーノは最後の試技に向けて、気合いの籠もった言葉をディアナに投げかけた。しかし、ディアナはすでに勝負が決まったこともあって、どこか興味をなくした様子だった。


「もう勝ちが決まったからどうでもいい」


その言葉に、ブルーノは思わず声を荒げた。


「ちょっと待て! 満点の期待が集まる中だぞ! まさかやらかす気じゃねぇだろうな!?」


観客の期待を裏切るような真似だけはしてほしくないと、ブルーノは焦る。だがディアナはニカッと笑って見せた。


「それも面白いかも?」


その表情からは、本気なのか冗談なのかブルーノには判断が付かなかった。しかし、これまで以上に期待の集まる中、僅かでもそのようなことを考える余裕があるディアナに、ブルーノはただ驚愕するしかなかった。


「お前すげえな。俺だったらそんなこと考えることすらできねぇよ」


ブルーノは心底感心したように呟いた。ディアナは肩をすくめる。


「でも、ブルーノが圧勝しろって言ったから、最後もちゃんとやる」


どうやらディアナなりの冗談だったらしく、そう言うと舞台へと戻っていった。


「まったく、紛らわしいだろ!」


ブルーノは悪態を吐きながらも、ホッと息を吐いてディアナを見送る。


『さぁ、いよいよアングリフの最終戦となりました。最終試技、先行は満点の期待がかかる、ディアナ選手からです!』


異様な歓声の中、ディアナが杖を構える。

競技場は再び静まり返り、重苦しいほどの雰囲気が漂った。すべての観客の期待を一身に受け、ディアナは水魔法を放った。


水の飛刃(ヴァッサークリンゲ)


彼女の魔法は、薄い円盤状になった水が高速回転しながら、次々とトルソーの首を落としていった。そして、最後に残った的の首を落としそのまま防御壁に着弾すると、「パン」と軽快な音を立てて魔法が弾け、防御壁の周りに美しい虹がかかった。

それまで妙な緊張感に包まれていた観客席は、まるで爆発したかのような歓声に包まれた。文字通り、観客席が揺れるほどの熱狂が会場全体を覆った。


『出たぁ! ディアナ選手、史上初の満点(フルスコア)を達成! 初出場での優勝に見事な花を添えました!』


実況の声が会場に響き渡り、観客は総立ちでディアナを称賛した。


アングリフ決勝 最終結果

優勝:ディアナ(アインホルン寮)

成績:合計一〇〇点

(火魔法 二十五点、風魔法 二十五点、土魔法 二十五点、水魔法 二十五点)


準優勝:ランベルト(フェーニックス寮)

成績:合計六十四点

(火魔法 二十二点、風魔法 十九点、土魔法 十四点、水魔法 九点)


ディアナは、その圧倒的な実力とどこか掴みどころのない魅力で、観客の心を鷲掴みにした。そして、彼女が成し遂げた史上初のフルスコアという偉業は、アングリフの歴史に深く刻まれることとなった。

2025/9/13 若干話の流れを修正しました。

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― 新着の感想 ―
来年以降どうなるんやろwww
ルールがいまいちよく分からない 「最終的にポイント数の多い方が勝利となる。」が勝利条件で三回戦終了時点で75対59だと勝利決まらなくない? 四回戦がディアナ8点、ランベルト25点とかで逆転出来る可能性…
つまり相手のランベルト君も1年生の時に優勝してると。
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