92 石ころ拾い
すぐにコリネルスから連絡が入った。
「そっちに向かってる。君の位置は確認済み」
「はい! ありがとうございます!」
「礼を言うな、これは作戦だ」
「はい!」
「北北西へ四百メートル行けば、小高くなった所がある。そこは潅木が生えていて、見張りには好都合だ。ンドペキが帰ってくるなら、その丘の下を通るだろう」
「きっと、もうすぐ帰って来ます!」
「ああ。そう思うよ」
「はい!」
「そこに、希少金属を含んだ石ころがたくさん転がっている。もし誰何されたら、それを集めていると言え。昼間は暑いから、夜にしてるんだと」
「わかりました!」
「薬になる植物も生えているけど、兵士がまさか薬草を採ってますというのもおかしいからな」
チョットマは笑った。
コリネルスは冗談を言ってくれている。
来てくれるのがコリネルスでよかった。
スジーウォンやパキトポークは、苦手。
スジーウォンは刺々しいし、巨漢のパキトポークとふたりきりは気が休まらない。
それに比べて、コリネルスはしっとりした人物。
ミッションの目的などをきちんと説明して、部隊を納得させてから行動に移すリーダー。
コリネルスはマト。
そうなっているが、他のほとんどの兵士同様、過去を語らない。
真偽はわからない。
ただ、根っからの兵士ではないようで、戦闘そのものに興味はなく、むしろ地形や風を読んだり、星を見たりするのが好きな男だ。
背もかなり小さく、戦闘能力は高くないが、言動の信頼度は高い。
もちろんハクシュウの命令は絶対視しているし、部隊を率いる能力にも秀でている。
コリネルスから教えられたことがある。
リーダーにはいくつかのパターンがある。
ンドペキは仲間型、スジーウォンはカリスマ型、パキトポークは親分型、そして自分は参謀型だというのだった。
「リーダーなのに、参謀型っていうのも変だけど」
「そうですか?」
「自分は常に準備万端で物事を進めたい。考え抜いた上で正しいことを実行したい。そしてそれを部下に説明する。だから参謀型」
コリネルスは、単なる一兵士であるチョットマを相手にしても、このようにきちんと説明してくれる。
チョットマは、そんなコリネルスが好きだ。
「隊長はどうなんでしょう?」
「ハクシュウか。すべてを備えているリーダー。見かけは俺よりずいぶん年下だけど、惚れているのさ。彼に。というより彼の手腕に、と言ったほうが正しいかもしれないけどね」
理屈っぽい面はあるが、安心できるのだ。
「生意気を言うようですが、そのとおりですね」
「生意気はいいことだよ」
「はい。でも仲間型っていうのは、どういうタイプなんですか?」
ンドペキの評価を聞いてみたい。
「部下を仲間だと思っている。個人の力を認め、協調と信頼の中で最大の力が発揮される。それが最も大切だと思っている。そういうタイプ」
「それ、わかりますね!」
「ハハ、君はまだリーダーという立場を意識してないだろうけど、自分なら何型になると思う?」
ンドペキは仲間型。
それなら私も、もちろん、
「仲間型です!」
張り切って答えたものだ。
「んー、そうかなあ。僕は、君はたぶん親分型になると思うよ」
「ええっ、親分型ですかあ!」
パキトポークと一緒ではないか。
チョットマは少しがっかりした。
「型といっても、どれが優れているという意味じゃないよ」
「はい……」
そしてコリネルスは、こうも言った。
「世の中には、リーダーの資質がないのにリーダーぶっているやつがたくさんいる。人を型に嵌めて見るのはよくないけど、こういう分類の知識があれば、腹を立てないでいいところで腹を立てて、目が見えなくなってしまう、ってこともなくなるだろ」
チョットマは、自分がよくスジーウォンやパキトポークに腹を立てて、突っかかっているところを指摘してくれているのだと思った。
「それに、自分がどんな類型に当てはまるのかを知っていると、部下を選んだり、上司を理解しようとするとき、少しは役にたつ。誰だって、敵の行動パターンや弱点を見極めようとするだろ。それなのに、自分や自分の仲間のことはおざなりなものさ」
チョットマは、コリネルスに指示された藪に身を隠しながら、丘の下や城門の監視を続けた。
そして、ンドペキのことを思った。
いったい、レイチェル長官になにを指示されたの?
仲間型なのに、なにも言ってくれないなんて。
しかも、自分がンドペキを監視する任務につくことになろうとは……。
ハクシュウもコリネルスも、見張るという言葉を使った。
ンドペキを見張れと。
見張れではなく、待てと言ってくれたらよかったのに。