91 一の子分だと自負もしているのに
どうしよ~。
私、おろおろしてる?
しっかりしなくちゃ。
私は、あなたの子分なんだから。
ね、ンドペキ、そうでしょ。
それにしても……。
どうして?
なぜ、私に何も言ってくれないの?
ンドペキが荒野を駆けているころ、チョットマはハクシュウと連絡を取っていた。
「ンドペキ伍長がトラブルに巻き込まれているみたいです!」
チョットマは城門の外にいた。
「北に向かって全速力で! フル装備で!」
「いつだ!」
「半時間ほど前です!」
約束の四時間が経ってもンドペキが現れなかった。
痺れを切らして様子を見に行こうと部屋を出ると、フライングアイと出合った。
パパが言うには、ンドペキはチョットマの部屋の前まで来たものの、そのまま通り過ぎていった。
不審に思って後をつけていくと、自分の部屋の前でレイチェルと会い、短い言葉を交わしてから武装して城門を出て行ったという。
「すぐに私も装備をつけて追いかけましたが、GPSのスイッチを切ってるみたいで、どこにいるのかわかりませんでした。それで、街に戻ってンドペキの部屋を訪ねましたが、やはり誰もいないみたいで」
チョットマは、盗聴装置が取り付けられているンドペキの部屋の前で通信するのをためらって、念のため、城門の外まで移動してきたのだった。
それに……。
ここならあなたが帰ってきたらわかる。
きっと、戻ってくる。
信じてる。
でも、不安もあるのよ。
このまま、いなくなってしまうようで。
サリがいなくなり、あなたまでいなくなったら……。
「うむ。盗聴装置とは?」
チョットマはパパから聞いたことを話した。
「もしかすると、私の部屋にも仕掛けられてるかも。家に帰る気がしません」
「じゃ、パパに見てもらえ。でも、パパはなぜそれがわかったんだ?」
「微細な電波を感じたそうです。普通の家電や武器や通信装置から発せられるものではなく、明らかに暗号化された信号だったそうです。私達が使う電波は、政府が内容を把握するために、暗号化することは禁じられているそうなんです」
「なるほど」
チョットマは身震いした。
こんな経験は初めてだった。
これまで、恐ろしい相手と戦ってきた。それこそ死に物狂いの戦闘を幾度も経験してきた。
しかし今は、身包み剥がれて簀巻きにされ、往来に放り出されたような、先の読めない恐怖が背中に張り付いていた。
「私、どうすればいいでしょうか?」
ハクシュウはしばらく黙り込むと、「こっちに来るか?」と、言ってくれた。
「はい、できれば」
「いや、ちょっと待て。ンドペキの動きも気になる」
「はい……」
「悪いが、城門付近で見張っててくれ。衛兵や街の人に怪しまれないように」
「……わ、わかりました」
「城門から目視できないところまで出て、潜んでいるのがいい」
「了解です……」
不安そうな声をしていたのだろう。
「心配か?」
「はい……」
「気にするな。レイチェルから、何か指示を受けたのだろう」
「でも……」
それならそれで、話してくれてもいいのに。
なにも黙って行ってしまわなくてもいいのに。
「北へ向かった。それが気になるけどな」
「でしょ。だいたい……」
チョットマは言葉を飲み込んだ。
ハクシュウに不安をぶちまけてもどうなるものでもない。
「応援にコリネルスを寄越す」
「はい、ありがとうございます!」
ハクシュウもやはり疑問には思っているのだ。
万一衛兵や見回りの兵に誰何されたとき、コリネルスと一緒なら夜の仕事に出るなどと、かわしてくれる。
「コリネルスなら、ンドペキから上手く話を聞きだせるだろう」
少しがっかりした。
身を案じてコリネルスを寄越してくれると思ったのに、ンドペキと話ができるから、なんて。
それじゃ、私の立場がないじゃない。
ンドペキの部下なのに。
それに、勝手に、一の子分だと自負もしているのに。
「万一の時には、コリネルスに守ってもらえ。あいつは衛兵連中や治安部隊にも顔が利く」
ハクシュウにそう言われて、チョットマは少しだけ気が治まった。
「では作戦にかかります。すでに城門を離れています」
「よし」