89 振り返らずに歩け
妄想をもてあそびながら、ンドペキは街を歩いた。
暗い裏路地から、華やかな表通りへと。
縫うようにして歩き回る兵士を気に留める者はいない。
ンドペキとて、目的があるわけではない。
もちろん、出会いを求めてのことでもない。
妄想を昂ぶらせないため。
意識を弛緩させるため。
そして、正気を保つため。
ニューキーツ一番の繁華なエリアに差し掛かる。
賑やかなオープンカフェが軒を連ねている。
並べられた白いテーブル。
顔を隠すことなく、生の声で話し込む人々。
笑い声も聞こえてくる。
マスクをしている者もいるが、総じて無頓着。
彼らも、政府に傍聴されていることは知っていようが、だからどうだというのだ、という諦観。
む。
雑踏の中に、見覚えのあるコスチュームを見た。
クシではないか。
すぐに見失ったが、胸騒ぎがした。
戻ってきていたのか……。
チョットマを襲ったのはやはり、あいつ……。
クシは元仲間だった男である。
手誰の兵士で、戦闘のために生まれてきたような男。
隊員である以前に、ひとりの戦士だった。
仲間という意識はなく、常に単独行動。
作戦にも加わらない。
ただ、東部方面攻撃隊に属しているというだけ。
仲間が危機に陥っていても、我関せずを通す。
見殺しにするばかりか、自分の戦闘を優位に進めるためには仲間さえ殺しかねない冷酷さ。
業を煮やしたハクシュウが、除隊処分にしたが、それを恨んでいたはず。
他の街に移り住んだと聞いていたが……。
クシがチョットマを狙った理由は分からないが、もしかするとサリをやったのも……。
と、そのとき。
スコープに文字が流れた。
-----振り返らずに歩け




