82 ここなら安全だ 生声で話そう
-----隊長が心配しています! 連絡が取れないからって
こっちもだ。今、部隊はどこにいる?
-----シリー川で警戒中 連中を監視しているわ 明日の朝までだって
そうか。で、おまえは?
-----ンドペキの様子を見て来いって
そうか、慰めてくれるのか。それとも監視されているのか?
-----だから心配してるんだって!
俺の身を案じて心配しているのか。それとも俺が何かしでかす、とでも?
-----もう! 変なこと、言わないでくださいよ!
おまえを信用するよ。俺はいつでもそうしている。
-----ハイハイ ンドペキ、ちょっと機嫌悪いです?
いいはず、ないだろ。
-----でも、隊長の言いつけだから、もうちょっと付き合ってくださいね
何でも聞いてくれ。ほら、どうぞ。
ンドペキは、さっき感じた部屋の違和感を思い出して、ここでの会話はまずかもしれない、と思った。
電子データのやり取りではなく、生の声の方が安全か、と思ったが、それではチョットマを部屋に入れることになる。
「いや、少し待ってくれ」
-----はい!
女に案内されたあの洞窟なら、誰に聞かれることもない。が、さすがに遠い。
しかも、レイチェルには街から出るなと言われている。
女はいずれ使うことがあると言っていたが、それはまだ昨夜のこと。
あそこを秘密のアジトと呼ぶなら、まだ誰にも知られてはいけない場所に違いない。
しかも、女は今、パリサイドに捕らえられている。
自分にあそこを利用する権利があるとは思えなかった。
クソ!
ええい!
仕方がない!
なるようになれ。
「入れ」
-----えっ!
さすがにチョットマは度肝を抜かれたのか、絶句した後、言葉がない。
男の部屋に入るということは、いきなりのプロポーズに、さっさと裸になってオーケーと言うようなものか。
「今、開ける。誰もおまえに注目していないか?」
-----うん、大丈夫みたいだけど……
「よし」
ンドペキは扉を開けた。
躊躇するかと思いきや、チョットマはさっと身を翻して部屋に入ってきた。
-----ふう! 誰にも気づかれてないと思う。
チョットマは、シリー川で見たときの装備をそのまま身につけていた。
ンドペキは誤解されないように、上官らしい言葉遣いで事務的に言った。
「ここなら安全だ。生声で話そう。いいな。では、ハクシュウの伝言を聞こう」
チョットマは、キョロキョロと部屋を見回していたが、直立すると、
「ハイ。JP01を撃ったのは誰か、ということでした。それから、ここ数日あったことを報告せよと」
と、早口に言った。
チョットマの生の声を聞くのは久しぶりだ。
彼女にしても、生の声で隊の誰かに話すのはそうかもしれない。
いや、サリの捜索の前に、顔を見せ合ったときに聞いただろうか。
緊張しているのか、これが彼女の声なのか、異常なほど金属的で高い声だった。
生成時のちょっとしたミスだな、とは思ったが、チョットマ自身も気にしているかもしれないことを、指摘はしなかった。
ンドペキは知っている限りのことを話した。
ただ、女と洞窟に行った時に感じた自分の心の動きだけは除いて。
もちろん、サリやチョットマを殺そうと考えていたことも。