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82 きれいな振袖なのに、ぎごちない笑い

 溜息をついて覗き込んだもの。

 キッチンカウンターの上の水槽。


「金魚、飼ってたこともあるねえ。金魚すくいでもらったやつ。一匹しか掬えなかったんだけど、店のおじさんがおまけしてくれたんだった……」

 もう泣き笑いの顔になっていた。

「バーチャルだけどちゃんと生きてるよ」



「ああー」

 成人式の日、フォトスタジオで撮った家族三人の記念写真。

 おじさんとユウお姉さんは満面の笑み。

 でも私は、きれいな振袖なのに、ぎごちない笑い。


「うわ!」

 アヤちゃんの思い出と刺繍された分厚いアルバム。

「うっ」

 パカリとめくると、中学の入学から始まる思い出の数々が詰め込まれていた。


「げ! こんなものまで!」

 結納のとき、相手の親が持ってきたオキナとオウナの木彫りの像。

 離婚して、どこかにしまい込んだもの。





「懐かしいものがいっぱい……。他の部屋も覗いてもいい?」


 今日は、おじさんに涙を見られたくない。


 会えば泣いてばかり。

 悪いのは私。

 もっとしっかりしなくちゃ。



「もちろん。君の家だろ」


 アヤは、キッチンを覗き、お風呂を覗き、トイレまで覗いた。

 そして最後に、寝室に入った。

 わずか六畳の和室。


「わたし、中学生だったのに、いつも三人で川の字になって寝てたんだ……」

 畳の真ん中で、座り込んでしまった。


 そしてとうとう、涙がこぼれ落ちてきた。

「今日は、うっく、泣かないでおこうと……」




 おじさんは静かに笑って、見ていてくれる。

 その手が髪に触れて、アヤは気持ちを奮い立たせた。


「ちょっとまずいかも。二回連続でイレギュラーな会話で終っちゃ……」

 と、無理に笑顔を作った。



 たちまち、おじさんが心配顔になる。

「なにかまずい兆候でも?」

「ううん」


 監視システムに、変化はない。

 おじさんのIDに付与されたコメントは、何もない。

 ただそれは、自分が知らないだけかもしれない。

 安全策を意識した。

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