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81 謎は深まるばかり

 シリー川から帰還する間、レイチェルもンドペキも、飛空挺の機内に言葉はなかった。


 街の上空に差し掛かり、高度を下げ始める頃になって、レイチェルがようやく口を開いた。

「今日はありがとうございました」

 そして、一緒にいてくださって、心強かったです、と頭を下げた。

「いえ」

 上官にそのようにされて、ンドペキは戸惑った。



 ストンと地面に降り立った飛空挺はモーターを止めることなく、ドアがスパンと開いた。


 降りようとするンドペキに、

「あの」

 レイチェルの声が追いかけてきた。


「今日はご自由に過ごしていただいて結構です。ですが、街の外には出ないでください」

「はい」

「明日はお話したいことがあると思います。できましたら、ご自宅にいてくださいませんでしょうか」


 レイチェルは無表情だったが、どこか懇願している調子があった。


 ンドペキは、「かしこまりました」と、応えた。

 了解、というのもはばかられるようで、とっさに出たのがその堅苦しい言葉だった。

 レイチェルは少しだけ微笑んでみせたが、その笑顔は閉まり始めたドアに隠されていった。



 上官に対し、話とは何か、とは聞けるものではない。

 これからの任務は、今はまだ決まっていないということだろう。

 そう判断して、ンドペキは直立したまま、飛空挺が飛び去るのを見送り、一直線に自分の部屋に戻った。


 装備は解かず、ハクシュウと連絡を取ろうとした。

 しかし、相変わらず、応答はない。


 ハクシュウはおろか、部隊の誰とも連絡が取れない。

 それどころか、誰の現在地も把握することができなかった。

 彼らはまだ公式な任務についているはず。

 現在地はオープンになっているはずなのに。




 ベッドに寝転んだ。

 疲れを感じた。

 天井を見上げる。


 む?

 微妙な違和感を持った。



 見回してみても、部屋は出て行ったときのまま。

 しかし、何か違う。


 留守中にスクリーニングされたのかもしれない。

 そんな感触。

 装備を解こうとした手を止めた。




 今日中は自由にしてよいと言われたものの、出かけていくあてがあるわけでもない。

 有名人になったわけではないが、どこかの隊長にでも声を掛けられて、今日の出来事の経緯など聞かれても面倒だ。

 違和感はあるものの、自分の部屋にいるに越したことはない。

 そう考えて、装備を身につけたまま、ンドペキは物思いにふけった。




 サリを殺して、自分が削除されることを望んでいたのは、それほど前のことではない。

 サリがだめならチョットマを、という妄想に至っては、つい昨日のこと。

 いろいろなことがありすぎた。

 単調なだけの毎日が数百年も続いた後に、この連続的な奇妙な出来事の数々。




 パリサイドの出現は、自分とは関係なく起きたこと。

 しかし、シリー川の支流で見知らぬ女と出会ったことから、不思議な事件は続いているように思う。


 パリサイドの使者JP01が例外的に自分を交渉相手の一員に選んだこと。

 そして、個人的に会いたかったからだと言ったこと。


 空から降りてきたパリサイドの女はサリの顔を持ち、JP01が謎の女に撃たれ……。

 その女と北の洞窟に行ったのは昨夜のことであるが、もうずいぶん前のことのように思えた。



 そもそもサリは……。

 謎は深まるばかり。



 ンドペキは考えようとした。

 あの洞窟の女は、誰だ。

 依然として、何も思い出せそうにない。


 JP01とは?

 会ってみたかったとは?

 あいつも以前の知り合いか?


 大昔、地球を後にした集団がいたことは朧に覚えているが、その記憶の断片にJP01はおろか、ひとりの女も出てこない。

 個人的に、と言われるような相手であろうとなかろうと。



 そしてレイチェルの微妙な態度。

 上官としての態度ではない。

 明らかに馴れ馴れしい。


 こちらはレイチェルと会ったこともないし、名も失念していたほどだが、向こうは以前から知っていたかのように。

 ただ、それは単に、彼女がそういう人だからかもしれないが。



 そして、洞窟の女はJP01を撃った。

 相手は好戦的ではないと言っておきながら。

 それなのに自分の方から発砲した。


 女、あるいはその背後にある集団は、パリサイドと敵対関係にあり、自分はたまたまその間に挟まったゴマ粒のようなものだろうか。

 何らかの形で利用されつつあるのだろうか。




 小一時間が過ぎたころ、チョットマからメッセージが入った。

 なるほど、キュートモードなら通信可能なのか。


 -----よかった! 繋がって!


 チョットマがはしゃいだ声を出している。

 それが伝わってくる文面だった。

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