77 ずっと君と一緒にいるから
イコマは会談の一部始終を見ていた。
チョットマの肩に堂々ととまって。
「ねえ、パパ。どう思う?」
ハクシュウから、まだ命令はない。
シリー川の岸に集結したニューキーツの軍勢は、それぞれの部隊ごとに撤収を始めていた。
「サリのこと?」
「うん」
パリサイドの地球への帰還より、サリのことが気になるチョットマ。
「お顔を拝借か」
「どういうこと?」
「よくわからないな」
「あいつがサリを殺したのかも」
「うーん」
「あんなやつらに地球に渡すもんか!」
チョットマは、武器をガチャガチャいわせた。
「彼らはそんなにバカかな。殺した相手の顔をつけて、僕らの前に現れるかな」
「その程度なのよ!」
イコマは唸った。
「でもねえ」
「だって、厚かましいと思わない? 地球に帰りたいって、あいつら言うけど、今更どんな面下げてのこのこ帰って来たんだってことよ!」
チョットマの鼻息は荒い。
なにしろ、サリのことなのだ。
「だいたいさ、教団がどうのこうのって、何だか知らないけど、あの居丈高な態度。ふざけるのもいい加減にしろ、よ!」
イコマは、あの連中と戦争になったら、勝てない、と思った。
なにしろ、弾は当たらないし、瞬時に姿を消すこともできる。
大空を舞うこともできる。物資の補給さえ必要ない。
それに、他人の顔を拝借することができるとなれば、手の打ちようがない。
JP01が女を抱えたまま対岸に消えてしまってからも、レイチェルはしばらくステージに立ったままだった。
その間、ンドペキ含め全軍がぴんと張り詰めた静寂に包まれた。
誰一人微動だにしなかったが、遠くで雷鳴が聞こえたのを機に、レイチェルは相手から受け取った書簡をンドペキに渡した。
ンドペキがそれを読んでいる間、レイチェルはハクシュウと二言三言話し、全軍撤収を命じた。
そして、ふたりして飛空挺に乗り込んで飛び立ってしまった。
背中で全軍の動きを感じようとしているかのように、ハクシュウは対岸を睨んだまま、まだ突っ立っていた。
「今日はこの辺りで野営かな」
チョットマが心配そうに顔を向けた。
「僕のことなら心配いらないよ。この目ん玉のエネルギーが切れても、ちょっとしたペナルティを受けるだけだから」
「送って行かなくてもいい?」
「いいよ。気にしないで。ずっと君と一緒にいるから」
ほとんどの部隊は、撤収を終えた。
「スジーウォン、コリネルス。全軍が撤収したかどうか、俺たち以外に誰もいないか、確認してくれ」
「了解」
スジーウォンとコリネルスのチームが上流と下流に分かれて、散っていった。
チョットマはカートの中身を確認している。
野営用の備品や食料など。
「よし」
そして、どことなく寂しげな溜息をついた。
「ンドペキの分も持ってきたけど、必要なかったみたい……」
スジーウォンとコリネルスから、報告が入った。
稜線から川原にかけての一帯には、ハクシュウ隊だけとなった。
「よし。今日はここで野営する。全員、ステージに集まってくれ」
作戦会議はてきぱきと進んだ。
ハクシュウはすでに考えてあったのだろう。各部隊の配置と万一の場合の対処を伝えた。




