78 ナウセルフのみで生きている
「パパは、チョットマさんがお気に入りなのね」
「そうだよ」
イコマが幸せな気分で毎日を送ってきたと思いたいのか、アヤは少しおどけて言う。
「典型的なメルキトでね」
チョットマのことも話して聞かせた。
「自分では、マトだと思ってるようだけど」
チョットマ。
ナウセルフのみで生きている。
一オールドの記憶もない。
知識量も人並み以下。
そのくせ人懐っこくて、メルキトには珍しく、人生を心から楽しんでいる……。
「メルキトはたいてい、自分がいやになってるか、無気力になってるか、なのにね」
「でも、その傾向はマトの方がひどいんじゃないかな」
マトは昔々、自分の生があるときに、死ぬか、アギになるかマトになるか、を選択することができた。
それに対してメルキトは、最初から再生され続ける人間として生きている。
「マトは自分で決めたんだから、もっと頑張らなくちゃいけないのにね」
「なまじ自分で選んだからこそ、迷いというか後悔というか、割り切れなさがあるんだろ」
アヤはマト。
どんな精神状態で、今まで生きてきたのだろう。
が、今、生き生きとしているアヤに聞く必要のないこと。
イコマは一般論を吐いた。
「再生回数が増えれば増えるほど、一から人生を始めるのに飽きてしまう。その感覚はわかる」
「あの二百年間、マトの製造が禁止されるまで、毎年世界中で四、五十万人がマトになったでしょう。総勢で一億人前後のマトがいる計算」
アヤも歩調を合わせてくる。
サリの話から、もしかするとユウの話題からも、避けていこうとするように。
「でも残存するマトは、現状わずか百万いるかいないか。ここ百年のうちに、大多数のマトは消えてしまった」
「アギも同じようなものだよ」
本当は生きていくという行為そのものがないアギの方が辛い。
マトには、「暮らし」というものがある。まだましだ。
現に、まともなアギはもはや十万人いるかどうか。
しかも、急速に減少している。
だが、これもアヤと話す必要のないこと。




