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76 白い廊下

 アヤは庁内食堂に向かっていた。


 会談は無事終わったころかしら。


 持ち場から離れるときには、必ず全身スキャンを受けなければならない。


 IDカードをかざし、生体認証を受けると扉が開く。

 エリアの中は何の変哲もない普通の廊下だが、数歩先にまた扉がある。

 その間を歩く間に、スキャニングされるのだ。

 IDカードと制服以外に、いかなるものも身に着けることは許されない。


 慣れたものだ。

 一度だって、五歩先の扉が開かなかったことはない。


 いつものように扉は開き、廊下が続いている。

 白い壁と天井、黒い床。

 飾り気の全くない光景だが、オフィスなのだからこれでいい。

 両側にドアが並んでいるが、そこにどんな部屋があるのか知らない。

 自分の仕事以外のことに関心を持ったり、他人に干渉することは政府機関内ではタブー。



 二区画ほど行くと、左に折れる。

 そこからは、壁や天井の色が濃い茶色に変わり、ライティングも床に光を流す間接照明になる。

 リラグゼーションエリア。

 食堂はその一角。


 今日はおじさんに会いに行けるだろうか。

 会談場に展開する兵士や政府役人の素行調査なんて、今さら意味はないのに。

 物見遊山気分で同行する連中もたくさんいるのに。




 再びスキャンエリア。


 あれ。

 スキャンエリアを出て、アヤは違和感を持った。


 んん?


 いつものように、廊下が続いている。

 見慣れた光景。

 が、誰もいない。


 昼食時なのに、誰も前を歩いていない。

 スキャンは順番待ちしていたのに。

 先に通って行った人は?



 おかしいな。 

 アヤは思わず振り返った。


 あ!


 そこにあるはずの、スキャンエリアの扉がなかった。

 白い壁があるだけ。

 行き止まりだ。



 えっ!

 どういうこと?


 鳥肌が立った。

 まずいことになったかも。



 立ち尽くし、自分の体を調べた。

 何も持っていない。

 規則を破るような点はない。



 ここはどこ?

 どう見ても、いつも通る廊下。


 ええっ?


 アヤは歩き出した。

 この先に、リラグゼーションエリアがある。

 食堂に行けば、人がたくさんいるはず……。



 何が起きたのだろう。




 廊下は進めど進めど、ただの一本道で、左右に折れるところはない。


 う!

 やばいかも!



 アヤは走り出した。

 廊下を走るのはご法度である。

 足音がかなり響く。

 しかし、そんな悠長なことは言っておれない。


 やばい!

 やばい!

 やばい!


 背後が気になり、後ろを振り返った。


 うわわわぁ!


 さっきと同じように、突き当たりだ!

 走ったのに!




 アヤは走るのを止め、今度はその突き当たりに近付いた。


 あわわわっ!


 突き当りが、歩みに連動して後退していく。


 どど、ど、どうすれば……。

 また前を振り返って、仰天した。


 やめてーッ!



 とうとう叫びだしてしまった。

 さっきまで続いていた廊下はなくなり、そこも突き当たりになっていたのだ。



 まさか!

 閉じ込められてしまった!


 前後十メートルほどの廊下に。


 左右にドアも何もない。

 もう廊下ではない。

 真っ白な、細長い箱の中に。



 だ、誰か、誰か……。 

 た、た、助けて!

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