76 喜びに満ちた日々が始まる
アギのメインブレインは思考体が見聞きしたことを、リアルタイムに、そしてまるで自分が体験しているかのように把握する。
メインブレインは常にアヤのことを考えていた。
アヤと再会してからというもの、これまでの数百年間を忘れ去ってしまうほどの、喜びに満ちた日々が始まった。
アヤは、あれ以来、毎日やってくる。
彼女との会話の数々は、まだ鮮明なままの記憶として、いつでも再生することができる。
英知の壷で見ていたような誇張された感覚を伴うものではなく、生の記憶として。
結婚はしていないという。
いろいろな職業を経て、様々な街で暮らし、今はニューキーツ政府内の某機関で働いている。暮らし向きはまずまずらしい。
前回の肉体再生時に、どういうわけか、大阪で暮らした日々の記憶をかすかに伴って生き返ったのだという。
ただその記憶は断片的過ぎて、自分が何者か、というところにまでは到達しなかったらしい。
しかし、イコマとチョットマの会話を見て、唐突にすべてを思い出したのだという。
そんなことってあるんだ~と闊達に笑ったが、その声とは裏腹に、目からはまた涙がこぼれそうになっていた。
またユウお姉さんの捜索をしたいとアヤは言うが、イコマはそれを頼むことをためらっていた。
今のアヤを大切にしなければ。
過去を引きずるだけの生では、意味がない。
少なくとも今、実体を伴って目の前で生きているのはアヤ。
そう。アヤなのだから。
「でも、パパ。私、パパの手足になるためにマトになったのよ」
と、言うのだったが、
「いよいよ必要となればね」と、かわしている。
パパ。
アヤから、パパはもちろん、お父さんと呼ばれたことはほとんどない。
今は、コンフェッションボックスの中。政府のコンピュータ監視下での会話。
パパと呼ぶのが最も安全。
そんな理由でも、なんとなく、イコマはうれしかった。
市民の情報を扱う部所にアヤはいるらしい。
それ以上は語らなかったが、外部に漏らせぬ事柄を扱っているのだろうと推し量る。
そういう部所にいればこそ手に入る情報もあるだろうが、それは現在の市民の情報。
過去の、しかも六百年も昔に特殊な任務に就いていたユウの情報ともなれば、それを探ることは危険を生むこともあるだろう。
万一、アヤの身に何かあれば、今度こそ自分は立ち上がれない。
そう思うのだった。




