75 紹介してくれなかったね
イコマはンドペキの姿が消えるのを待って、チョットマに声をかけた。
「ボーイフレンドに、紹介してくれなかったね」
「だってぇ……」
乙女心というやつだろう。
それに、襲われた後だ。
そんな気分ではない。
「ハクシュウのときと同じように、ンドペキにも声を掛けておくよ」
「うん」
チョットマには、何の前情報もなくハクシュウに声を掛けたかのように話したが、実は予備知識は得ていた。
アヤから聞いている。
「ハクシュウっていう人なんだけどね」
アヤの情報によれば、生誕年は間違っていなかったようだ。
元は日本人であるという想像も正解。
「再生されるたびに新しい街に行くみたい」
アヤは街の名前を挙げてくれた。
イコマにとって、懐かしい街の名もあったし、ほとんど行くこともない地名もあった。
「でも、そんなにころころ住む街を変えたら、友達がいなかったりして」
と、アヤは笑っていた。
「それに、職業はいつも兵士みたい」
兵士としては優秀なようで、リーダーとしても素質があるようだ。
多くの街で、それなりの階級に登っている。
イコマの思考体は、最大で三つに分割することができる。
本体つまりメインブレインとは別に、ふたつの思考体をフライングアイに載せて動かすことができる。
当然、データベースは共通。
つまり、同じ記憶を持ち、常に同期している。
そして思考体は、単独で思考することもできるし、メインと連動して思考することも可能。
今日のように、チョットマとピクニック中であれば、それに集中してもよいのだが、どうしてもアヤのことを想ってしまう。
チョットマは、今朝の待ち合わせ場所に使った裏路地に入っていき、建物と建物の間に身を潜り込ませた。
今日のピクニックは終了だ。
「今、いいよ」
フライングアイを引き連れた兵士なんて、他人に見られたらどう思われるか知れたものではない。
ましてや、街のカメラに捉えられては、面倒が起こらないとも限らない。
「じゃ、また明日」
チョットマの合図と共に、イコマはチョットマの体から離れた。




