690 私の意識の中で当たり前のことになり
「しかし、手違いが起きた。もう少し後の私を作っておけばよかった」
目が合った。
何か言わねばならない。
「つまり、俺以外の人が好きになった?」
「ちょっと違うけど、ノブのことを……。そしてマトになって……」
「その責任は俺にある。おまえを、その、愛しきれていないというか、まだ……」
ンドペキの中のイコマの意識が話している。
「ううん。違うのよ。早すぎたのよ。ノブのことが好きだったけど、なんていうか、歳の離れたおじさんと、その、いいお付き合いになればって感じでしか……」
ユウのクローンは、自ら進んでは、クローンであるイコマに会おうとしなかったという。
「私はそのミスに気付けなかった。そう、自由が制限されてしまっていたから」
今、スゥの口から出る言葉は、ユウの意識が発している。
「私の希望では、クローンのノブと私が、そしてノブがマトになってからも私と、睦まじく暮らしていくことだった。そして、私自身が帰ってきたとき、アギのノブも含めてみんなで仲良く暮らすことだった。でも……」
「海の中で、最初に探したのは、クローンからマトになっているはずの私」
ンドペキは、悲しかった。
これもまたユウの話。
スゥ自身の話を聞きたい。
「スゥと名乗っている呪術師。私は、とある海岸で待ち伏せ、ンドペキにしたように記憶を共有し、意識や思考を同期させた。自分にするんだから、方法はもっと強引だったけどね」
突然、スゥが苦しげな声を出した。
「ンドペキが苦しんだように、私も苦しんだ。なにしろ、わけがわからない意識が私を乗っ取った!」
ああ、今はスゥの意識……。
「ユウの意識が入ってくることによって、私もノブを愛するようになった。というより、私の意識の中で当たり前のことになり、ノブを探さなければと思った。そして、見つけ出した。幸いなことに、同じ街に住んでいる攻撃隊員だった……」
再びあの川原での出来事が思い出される。
すべては、あれが始まりだった。
そのときすでに、スゥは、ユウは、ンドペキがイコマだと知っていたのだ。




