686 人を愛するという感情を
ンドペキは、スゥの近くに移動した。
自分でもあるイコマと、ユウの昔話はンドペキの心に大きな衝撃を与えていた。
しかし一方で、悄然と座っているスゥが気になって仕方がなかった。
スゥは硬い表情で目を瞑っている。
時々目を開けるが、何かに堪えているかのように、地面を見つめて微動だにしない。
ンドペキはスゥの肩を抱いた。
そして髪を、頬を撫でた。
「ごめん、スゥ」
スゥは、ふっと目を上げ、一瞬視線を絡ませただけで再び目を落としてしまう。
「前に、二重人格だって言ってたよな。俺こそ、二重人格者だったよ。今も、ンドペキである俺と、イコマである僕が、同時に存在しているんだ。ユウを愛しているイコマである僕と、おまえを愛している俺、ンドペキが同居しているんだ」
ンドペキは、スゥを愛している、という言葉を使ってしまったことに、少なからず驚いた。
人を愛するという感情を、もう数百年間も持てないできたのだから。
そんな言葉が、あっさりと口から出たことに驚いてしまった。
ただ、そう言ってしまったことで、心が少しだけ晴れた。
しかし、スゥはやはり何も言わず、首を横に振った。
そしてたちまち、瞼に涙を溢れさせた。
そんなンドペキとスゥの様子を、ユウがチラリと見た。
「さあ、ノブ、話は尽きないけど、次の話に移っていい?」
「まだあるのか」
「うん。ンドペキもいい?」
「なんなんだ?」




