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684 プロポーズはしてもらえなかったけど

「いやはや、なんともいえない気分だ!」


 フライングアイが何度も感嘆詞をつけて言う。


「僕はあのとき、死んだのか! ユウに! おまえに! おまえに抱かれて!」

「そう。私は、ノブが死んでしまうとわかった。だから、あることをした」

「そうか!」


「うん。私はね、あなたの体のサンプルと、あなたの脳に蓄えられた記憶をすべて記録した」

「クローン!」


「そう。二体」

「えっ、二体!」



 ユウは穏やかに話している。

 六百年前に起きた不思議。

 イコマにとって、小さくはなれど、決して消えることのない金沢での不思議。

 それが解説されようとしていた。



「ひとりは大阪に届け、ひとりはマトになる申し込み所に連れて行った。私が付き添って」

「えええっ!」

「怒ってる?」

「怒るわけがない! 僕にとって、本当に女神だったんだ!」

「女神じゃない。私はあなたを心の底から愛していた。ただそれだけ」



 ンドペキはクローンだった。

 イコマもまた、生駒のクローンだった。



「当時はだれも、クローンだなんて思いもしない。アギにだって、マトにだって、なることはできたのよ」



 一体は、マトに。

 もう一体は、アギに。



「あなたがアギになることはわかっていた。ノブの性格からすると、マトになるとは考えられなかった。だからもうひとりのクローンはマトになって欲しかった」


「そう。僕はアギになる以外、考えもしなかった。すべての思い出を……」

「でしょう。ノブは肉体を求める人じゃない。心を求める人。思い出を捨てて、身体を欲しがる人じゃない。自分の記憶を、生きた証を、意思や思いを、そして私の思い出を大切にする、そういう人」


「あのころ、僕にとって、おまえとの思い出だけが生きていく支えだった」

「わかってたよ。曲がりなりにも私、ノブの恋人だから。プロポーズはしてもらえなかったけど」

「つっ、それは」


「わかってるって。恨んでなんかいないよ。それがノブの優しさであり、もっとも悲しいところだったから」

「うん……。ごめん……」


「私の方からは、ノブにわかるようにプロポーズ、なんどもしてんけどなあ。辛かったー」

「そうか……、そうだったかも……」

「でも、もういいやん。こうして心の中をさらけ出して、話せるようになったんやから」



 ンドペキは、イコマは、心からユウに申し訳ないことをしたと思う。

 ユウが今、あえて口にした、プロポーズはしてもらえなかったという言葉に、胸がえぐられるような思いがした。


 やはり、そのことがユウを苦しめていたのだ。


 自分の独り合点や思い込みが、最愛の人を苦しめていたのだ。

 六百年経ってなお、ユウの心に鉄球のような錘を落とし込んだままなのだ。

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