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66 ふたりの新居を案内するように

 女は真白いドレスを身に着けていた。


「どう? 驚いたでしょ。ピッタリフィットの花柄スケスケインナーだと思った? はい、もう武器は持ってないわよ」


 しかも、女の声は電波を介していない。

 柔らかい声だった。



 ンドペキの喉から、思わず吐息が漏れた。

 すでに緊張は緩んでいた。



「さあさあ、もういい加減に、そのきらびやかなスーツは脱ぎなさいよ。せめて、お顔は見せてね」


 女はどこから出したのか、飲み物を手にしていた。

 よく見かける清涼飲料水のボトル。


「そして、そこに。座って。話さなきゃいけないことが、たくさんある」


 女は樹脂製のボトルから、グラスに水を注ぐ。

 そうする間も、目をそらさない。



 少しの間が空いた。


 ンドペキは観念した。

 装甲をすべて外し、それらを机の上に置くと、女の前に座った。




 なんともいえない落ち着かない気分だったが、女はにこやかに微笑んで、グラスを滑らせてきた。

 そしてようやく、視線を宙に向けた。



「さて、まずは、なぜここに案内したのか。そこから始めようか」

 唐突に話し出した。


「待て。まず、君が誰なのか、それから始めてくれ」


 女は、ぐっと顔を近づけてきて、

「わからないかなあ」と、笑った。


 フッと、いい香りがした。

「でも、それは最後に。そう決めてるの」




 女が話してくれたことは、雲を掴むようなことばかりだった。

 内容があいまいだったからでもあるし、実感が伴わないことも多かった。



 曰く、


 この場所は、近い将来、ンドペキとその仲間たちにとって、重要な拠点になる。


 この広間以外にも多くの部屋があり、食料や日用品などもひと通りは蓄えられてある。


 政府のいかなる機関にも、所在は探知されていない。


 近くに建造物はもちろんのこと、街道もなく、周りに兵器も配備されていない。敵のマシンの出現も比較的少ない。


 広間の中を流れる水は、地下水系として脈々とながれ、やがて大きな川に注ぎ、海へと至る。


 この洞窟へのアプローチは、今走ってきた道が街からの最短ルート。


 魚のように泳げるなら、水中のルートも考えられなくはない。

 しかし、水面は穏やかでも、すぐ下は急流となっていて、たちまち足元を掬われて確実に溺れる。

 あっという間に流されて、岩の隙間を流れ下る激流に飲み込まれてしまう。

 そうなれば、次に顔を出せるのはこのずっと奥の広間。

 そこまで息が続くものではない。

 


「私が、商売用に使っている場所。ンドペキにも使ってもらえたらいいな、と思って」


「商売というのは?」

 ンドペキがそう言う間に、女は立ち上がっている。

「それは内緒。今はね」

 そして、足早に広間を横切っていく。


「一緒に見て回った方がわかりやすいから。あ、武器は要らない」

 ンドペキは、武器を持たずに歩くことはしなかった。

 たとえ街中であっても、小火器や短剣程度はいつも身に着けている。


「ここは、私の仕事場って言ったでしょ」

「む」

「誰にも邪魔はさせないし、ここで血を流させはしない」


 女は、後姿を見せたままピシリと言い放ったが、振り返った口元には朗らかな笑みがあった。






 ンドペキは女に案内されて洞窟内を見て回った。



「そこの湧き水が飲める」

 女は次々と解説していく。



 発電設備はここ。水力発電。かなり優秀よ。


 ここに食料を溜め込んである。一応、五十人が三ヶ月は頑張れる程度の量ね。


 この通路には、小部屋がたくさん並んでる。寝室にどうぞ。

 毛布くらいは運んであるから。

 床が固いから寝心地はいいとはいえないし、ドアもないけど。


 この部屋。

 ここだけは、誰も入れないでね。私の寝室兼執務室だから。

 必ずノックすること。


 キッチンはここがいいわよ。煙が抜けていってくれるから。


 ほら、ここ、いいでしょ。

 露天風呂気分じゃない?

 この穴にお湯を入れて。湯加減は川の水で薄めてね。


 武器弾薬の類はまだあまり用意していないわ。どんなものが必要なのか分からなかったから。

 リストを作ってくれたら集めておくけど。


 エネルギーパッドはここに積んである。

 すべて満タン。汎用タイプのものだけど。




 まるで、ふたりの新居を案内するように、案内してくれる。

 踊るように歩き、歌うように喋って。

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