669 いつの間に、そんないい子ちゃんに
「さあてと」
ライラは気のない返事。
「もしかして、ライラ」
「ん?」
「人類が滅びてもいいと思ってる?」
「いいや」
「パリサイドを押さえ込めるのは、アンドロしかいないと思ってるとか?」
「うんにゃ」
「じゃ、どうしてオーエンと旦那様に協力してもらおうと思わない?」
ライラがそのあたりに唾を吐き散らすかのような顔をした。
あのふたりは、そんなことはどうでもいいんだよ!
やつらはもう、亡霊みたいなもん!
己の意思があるだけで、周りのことなんか見ちゃいないさ!
「ライラ……」
フン! あたしゃ、やっとやつらと縁が切れて、うれしくて堪らないんだよ!
「でも、頼んでみてくれないかな」
真っ平ごめんだよ!
そんなことより、早くあのタブレットの作り方!
「ねえ、ライラ」
いつの間におまえは、そんなにいい子ちゃんになったんだい!
他人のために働こうなんてさ!
だいたいさ!
ライラが本気で怒り始めているのか、これも普通の態度なのかわからないが、少なくとも核心に近づきつつあるという感触はある。
「おまえはなんだってあんな洞窟に、兵隊を匿っているんだい! だれか好きな人でもいるんかい!」
「そんなんじゃなくて、私は」
「人道的に、なんて言うつもりか!」
「ううん」
突然、ライラが声の質を変えた。
「ねえ、スゥ。あたしはおまえとこれまで散々喧嘩した。でも、仲良くもしてきたつもりだよ。商売仲間としてだけじゃなく」
そして大きな溜息をついた。
「スゥよ」
「なあに?」
「あたしはおまえにいろんなことを教えてきた。恩着せがましく言うわけじゃない。おまえを娘のように思ってきたからじゃないか。それが、今や、どうだい」
ライラが背を丸めた。
そして両手を膝の上にきちんと揃えると、しおらしい声を出す。
「もう、あたしから離れていってしまったのかい?」
これが芝居だとしたら、なかなかの名優だ。
スゥは微笑みながら、何も言わない。
ここで口を開けば、ライラの思う壺にはまるのだろう。
「あの洞窟で、スゥよ。何がしたいんだい?」
おせっかいかもしれないが、言わせておくれ。
おかげでおまえの商売はあがったりじゃないか。
せっかく客が押し寄せてきてるのに、おまえがいないんじゃ。
あのボンクラ社員どもだけじゃ、とても捌けていないじゃないか。
「まあねえ」
「商売を捨ててでも、やらなくちゃいけないことって、何なんだい?」




