667 お嬢ちゃん 挨拶は終わり
予想通り、ライラは満面の笑みで扉を開けた。
そしてやはり、前置きなしに、例のタブレットの作り方を教えろと迫った。
「まさか、魔法じゃないだろ。製造方法があるんだろ」
しかしスゥは、ライラの要求をばっさり切り捨てる。
「盗み聞きするとは、サキュバスの庭の女帝も落ちぶれたものね!」
「なにを言う! あそこで夫を偲んでいて何が悪い!」
「やはりね。どこに隠れてたの?」
「ふん! 夫はあれでも技術者。あれだけの装置があるんだ。通気口を作り忘れるほど、ボンクラじゃないよ」
「ふうん。じゃ、今から、あなたの記憶を消す。言い残すことは?」
「なに!」
「記憶を元通りにするのが簡単なことなら、消すのも簡単なこと」
ライラも百戦錬磨。
これしきの脅しには、ひるむ様子もない。
美しい髪のセットに手をやって、
「そうか。それならその方法も教えてもらおうか」と、のたまう。
「バカも休み休み言ったほうがいいと思うよ。なぜ、私があんたに教えなくちゃいけない?」
ライラはフライングアイをチラリと見て、
「イコマかい? それともンドペキかい?」
と、唇の端をゆがめた。
「たとえ、東部方面隊の隊長でも、その姿じゃ、あたしにかすり傷ひとつ負わせられないだろうね」
憎々しい目を向けて、椅子に座った。
「さあ、お嬢ちゃん。挨拶は終わり。お食べ」
テーブルの上に、マンゴーがカットされて盛られてあった。
「珍しいだろ。こんなに色が濃くてみずみずしいのは。毒入りマンゴーじゃないし、魔法のマンゴーでもないよ。正真正銘、さっき市場で買ってきたばかりのマンゴー」
スゥも手近な椅子に座ると、オレンジ色の果実にフォークをプツリと突き刺した。




