65 警戒するのは当然って?
「どう? この大広間」
女はそう聞いてきたが、感想は期待していないのか、かすかな溜息をついて椅子に腰掛ける。
ンドペキは突っ立ったまま、改めて女を見た。
軽装のバトルスーツを纏っている。
現在主流の、絹のようにしなやかな素材。
ナノカーボンの超伸縮性スーツ。
編みこまれた金属が放つ緑がかった光沢が、この洞窟の大広間の中では存在感を際立たせていた。
チタン合金のように見える肩当やブーツには、濃紺の花模様。
ヘッダーとスコープ付きのゴーグルは一体型で、こちらも合金製。
目の部分にはめ込まれたガラスはハイグロスの光沢仕様で、これも緑色を放っていた。
いずれも非常に高価なもののようだった。
「ん!」
ンドペキは身を硬くした。
女がヘッダーを外そうとしている。
耳の下から順に、留め金を外していく。
女はこちらを向いている。
ンドペキは、背中に汗が吹き出てくるのを感じた。
女の手がヘッダーを持ち上げる。
金属の装甲の下から現れたマスク。
純白で、頭部までタイトにフィットするフードタイプ。
鼻の部分に装着されたプロテクターだけが異様に尖っている。
女の小さな頭部がにこりと笑った。
他人に肌を見せることはおろか、表情を読み取られることにも慣れていないンドペキにとって、この状況は緊張を強いられるものだ。
街の女は素顔を隠さないが、今、この女は武装している。
その最も重要な頭部をプロテクトする武装を外したのだ。
マスク姿の女の顔を見つめた。
目の部分にはグラスが嵌まっていなかった。
目が合った。
その目元が、微笑んでいるように見えた。
黒い瞳が瞬いた。
女は視線を外そうとしない。
ヘッダーを机に投げ出すと、あっさり、マスクを剥ぎ取った。
流れ出した長い黒髪が揺れて、光を放った。
ンドペキは女の顔を凝視していた。
若い……、美しい……。
女もひと時も目を離さず、見つめ返してくる。
やがて女は少し仰向き、スーと息を吸い込んだかと思うと、立ち上がった。
「私が武器を持っているから、あなたはそこで突っ立ってるのね」
と、バトルスーツを脱ぎ始めた。
「いろいろと仕込んであるからね。スーツごと脱がなきゃ、信用されないわね」
思わずンドペキは、声を掛けた。
「いや、そういうわけじゃない」
「じゃ、なぜあなたは女が素肌を見せてるのに、そんなものをかぶったまま?」
「う」
言葉に窮する間にも、女はスーツを脱いでいく。
「何も聞かされていない」
「だから警戒するのは当然って?」
「いや、警戒というのは違う。何がどうなっているのか、わからない」
「そうよね。そうだと思う。でもね」
女がバトルスーツを投げ捨てた。
「私を信用しろと言ったでしょ」