65 巡礼の旅立ち
あるとき、教団が数百艘の宇宙巡航船で構成された巨大な船団を構築していることが明らかになった。
戦争……。
今この時点で地球全体、及び宇宙空間に散らばる人類基地や衛星を巻き込む戦争が起きれば、もはや人類は破滅。
それは火を見るより明らかだった。
ようやく、ワールドは動き始めた。
ワールド大統領と教団最高指導者である教皇の初めての会談が行われたのは、光の柱に支えられた英知の壷のひとつ、ピースである。
後の世にいう「ピース会談」
仲介したのは、ひとりの女性だといわれている。
類稀なる美貌と、人の能力を超越した魔力を持つといわれたが、その実像は明らかにされないままだった。
しかし、地球人類は救われた。
教団は地球の覇権を望んではいなかったのである。
あくまで、宇宙のいずこかにある神の国を目指すことに、すべての心を、すべての力と富を注いでいたのだ。
公式にはそのように伝えられている。
そして現実に、ピース会談から十数年後、教団は大船団をなして宇宙に旅立っていったのである。
宇宙の中心、あるいは聖地、神の住む星を目指して。
彼らの行き先は教皇のみが知るとされていた。
教団内部では、特に宇宙巡航船に乗り込んだ者たちの中に、それがあてどもない旅だと考えていた者はほぼ皆無であろう。
ワールド政府は、その無謀ともいえる巡礼の旅を止めようとはしなかった。
地球社会の秩序を保つ上で、これほど効き目のある薬はなかったからである。
非信者にとっては、膿が自ら出て行ってくれるのだから。
実は、船団には信者だけでなく、大量の犯罪者も紛れ込んでいたと言われている。
ワールド政府が、手に負えない犯罪者及び異端とされる科学者や野望が大きすぎる実業家などを、教団に押し付けたのだと言われるようになるのは、巡礼の旅立ち後、十年以上が経ってからのことである。
ピース会談で何が話し合われたのか、すべてを知る者は既にない。
大統領は、その本当の目的と成果を明らかにすることなく、帰らぬ人となった。
彼は、人の子として生まれ、年老いて死んでいく人、つまりホメムだった。




