644 私が作ったあなたを
「どうやって探し出してくれたんだ?」
「ねえ、ノブ」
「ん?」
「アギやマト、つまりホメム以外の人の記憶って、どうやって再生されると思う? 肉体は物理的に作り出すことはできるよね。でも、脳に蓄えられたすべての記憶は、どうすれば回復できる?」
「……わからない」
「以前はね、衛星軌道上に浮かんだ英知の壷の膨大なデータベースに蓄積されていた。しかし、それにはとてつもないエネルギーが必要で、しかも消滅の危険性があった」
「……」
「人類はすばらしいことを思いついたのね。実際はアンドロかな。データベースのハードとして、海を利用することを」
「海!」
「そう。海。もっと言うと、海に繋がった水域すべて」
ユウは、一年前に地球を訪問したパリサイドの宇宙船から、ごく小さいカプセルとして離脱し、海に落ち、そこで体を取り戻したと説明した。
そのとき、人類のデータベースとして海が利用され始めたことを知ったのだという。
「その時の驚きは、今あなたが感じたのより、もっと強烈な驚きやったよ。だって、すべての人類の、何百年に渡る記憶が漂ってるんやから」
「うむう……」
最初は、ごくかすかな記憶の断片が私の意識の中を掠めていくだけだった。
しかし、そのうちにそれをしっかり受け止めることができるようになり、そして繋ぎ合わせることができるようになった。
ついには、特定の記憶を、ある程度は探し出すことができるようになったのよ。
そして見つけた。
私が作ったクローンのあなたを。
海……。
全く予想もできない世界だった。
記憶は、自分の脳にあるものだと思っていた。
それは正しいと同時に、間違っていた。
真実は違う。
ユウは、大事なことだからと、さらに説明してくれる。
マトやメルキトの思考や記憶をつかさどる脳の働きは、すべて海に注ぎ込まれているのよ。
政府のコンピュータシステムを経由して。
ヘッダーやゴーグルを外して誰かと話しても、実は政府のコンピュータはその中身を取得しているのよ。
いいえ、話の内容なんてシンプルなものだけじゃなく、その時の心の動きまでもね。
そして海に蓄積される。
再生時には、それをチョイスして、インプットされるのね。
「ものすごいシステムだな。脳の働きをすべて蓄積するというのは。とてつもないデータ量だ」
「そう。だから、海を使うことを考え出したのね。いつそのように移行したのか知らないけど、私が宇宙に出て行ってる間に人類が発明したものの中で、最大の意義あるものじゃないかな」




