643 忘れたことのない笑顔
「私は、地球に帰ってきた。それはこの前、少しだけ話したよね」
「ああ……」
これもイコマとして聞いたこと。
ユウの舐めた辛苦を思うと、自分の暮らしなど、呑気な子供遊園地のようなものだと思ったのは、つい先日のこと。
しかし、ンドペキは返事をする気力を失いかけていた。
俺がクローン……。
俺はクローンだった……。
そのことだけが脳を駆け巡っていた。
ユウの話が続いていく。
ノブはすぐに見つけられた。
名前を変えていた。
ンドペキという名に。
名前を変えた。それは私のことを、忘れてしまった証拠。
私を探し続けてくれているなら、名前は変えないはず。
「忘れるものか! 探し続けていたんだ!」
フライングアイが叫んだ。
「そうね。それはアギとなったノブの方。ンドペキは、私のことはおろか自分のことも、すべて記憶を失くしていた」
「……」
「それでも、私にとってノブはノブ。待ってくれてはいなかったけど、地球上に存在してくれていた」
ンドペキの思考にイコマの思考が流れ込んでくる。
ユウ、ありがとう、と。
ンドペキは顔を上げた。
ユウを見た。
忘れたことのないユウの笑顔。
少し曇っている。
しかし、目からは強靭な意思がほとばしっている。
「ありがとう……。本当にすまなかった」
「いいのよ。マトのシステムがそういうものやから」
ユウの笑みが少し大きくなった。
「六百年経って、昔の自分を見失わないで生きている人を探す方が難しいよ。だからいいのよ、気にしないでも」




