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599 心が少し晴れたような気分に
自分がかつて見たものだと説明されても、言葉として脳には伝わったが、そこから引き出せるものは何もなかった。
ンドペキは、スゥを抱いている腕を緩めた。
そして肩に両手を乗せ、「ふがいないだろ」と、呟いた。
スゥの目から、どんどん涙が流れ出し、頬からこぼれて、ぽとぽと落ちている。
「でも、私が出てきた。よかった。それだけでも……」
それから何度試してみても、もう聞き耳頭巾の力は現れなかった。
「もはや、ここまでか」
「力みすぎてるから。また今度ってことね」
「ああ。でも、一旦は返さないと」
「もちろん。ね、あの子には、今のこと、絶対に話さないでね」
「ああ。ん? なぜ?」
「まずは、あなたが先」
ンドペキは、心が少し晴れたような気分になった。
依然として、スゥのことは何ひとつ思い出せなかったが、幻影だけは見えた。
スゥが、それが自分だという女性が。
なんとなくうれしかった。
そして、いつか思い出せそうな気もした。
そして今、はっきりと、自分はスゥが好きなのだと思った。




