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598 唇にはまだスゥの感触があった
白い、黄色味を帯びた光。
飛んでいる。
ふわり、ふわり。
これは……、虫……。
そうだ……、蛍……。
巨石にもたれて……。
荒い石の表面……。
手の平に砂が食い込む感触……。
得体の知れない動物の顔を持つ石像……。
それが真っ二つに割れ……。
はっとした途端、幻影は消えた。
唇にはまだスゥの唇の感触があった。
ンドペキは目を開けると、今度はスゥを抱きしめた。
そして口づけた。
スゥが涙ぐんでいた。
「すまない……。やはり、思い出せない……」
ンドペキは、スゥを抱きしまたまま、感じたものを話した。
「ンドペキ、すごいよ……」
スゥの目から涙が溢れ出した。
体に回されたスゥの腕に力がこもった。
「それは、大昔、あなたが見たもの……」
「そう、な、のか……」
「若い女性は私。女の子はアヤちゃん……。岩代神社のクスノキで、聞き耳頭巾を試したとき……」
朦朧としていた。
すべてが霞の中にあるような気がした。
スゥとキスしたことも。
今見えたものも、耳にしたことも。
自分がしたことではないような感じがした。
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作者注:
ここに出てきます一連の幻影は、ミステリー小説「ノブ、ずるいやん」のシーンです。そちらも、ぜひお読みください。イコマ、ユウ、アヤが主人公で時代設定が現在の推理小説です。




