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595 ハイ、これ やってみて
奇妙な気分だった。
簡単な装備だけは身につけているが、スゥは薄手の服を着ているだけで、もちろん素顔だ。
男と女が、夜の森の中で小さな光を挟んで向かい合って立っている。
セクシーな気分はないといえば嘘になる。
しかし、それらの経験は遠いおぼろな記憶としてあるだけ。
このようなシチュエーションで、きわめて美人なスゥと向かい合っていても、欲望が大きくなることはない。
むしろ、あるのは居心地の悪い不安だけ。
腰をおろした。
スゥは立ったまま。
「ンドペキ、そのゴーグル取ってくれない? 目が見えないと話しにくい」
言われたとおりにした。
「さてと」
スゥが懐から、布を引っ張り出した。
「ハイ、これ。やってみて」
「はあ?」
聞き耳頭巾の布地が、紫色の光をチラチラと放っていた。
「ほら、立って」
「まだ、ふざけてるのか?」
「ふざけてないよ」
「じゃ、これやってみて、ってどういうことなんだ!」
「なんかさあ。最近、ンドペキ、怒りっぽくない? 部下に嫌われるよ」
「それなら、俺を怒らせるな!」
小さな明かりに照らされて、白い顔が暗闇に浮かんでいる。
スゥが真顔で見下ろしていた。




