592 かれこれ六百年以上も前のこと
「かれこれ六百年以上も前のことよね。いまも、妖怪や怨霊なんて、いるのかな」
スゥが、またイコマに話しかけた。
「そりゃ、いるんだろう、妖怪は。以前より多いかも」
「へえ」
「何せ、人の手が及ぶ範囲はあの頃より格段に狭くなったから」
「そうよね」
「荒地も森林も」
「でも、大きな動物はほとんど絶滅してしまったけど?」
「動物が古びに古びて妖気を持つ存在に変化する、ってこともあるけど、ほとんどは何らかの「気」じゃないかな。人も含めた動物由来の。それが物質に取り付くから妖怪ってことになる」
「そうね」
「「気」という意味なら、増えることはあっても少なくなることはないんじゃないかな」
「じゃ、今でも、例えばこのあたりの木の話は聞けるのかな。その布を被ってたら」
「たぶんね」
「貸してくれないかなあ」
スゥが厚かましいことを言い出した。
さすがに、これにイコマは反応しない。
レイチェルもポカンと口を開けている。
「おいおい、それはいくらなんでも」
ンドペキは止めようとしたが、スゥはいうことを聞かない。
「だって、確かめてみたいじゃない。きっと、ライラは使ってみたと思う。私も使ってみたいのよ」
頑固だ。
「バードにとって、大切なものなんだぞ」
「わかってるよ。ね、ちょっとだけ」
「いいよ」
ああ、断ればいいのに。
スゥに助けられたのだ。
断れるものではない。
バードの代わりに、ンドペキは「すぐに返せよ」と念を押した。




