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591 アヤの病室にて
「不思議な品物なんだな。チョットマは相当怖い思いをしたみたいだし」
ンドペキとイコマは、もう互いに気を遣う相手ではなくなっていた。
アギはパパかママ、という慣習が続いてきたおかげで、年上の者に対する言葉遣いが一般的だが、ここは戦地。
有意義でもない気遣いはやめようという意識が、互いに働いていた。
「でも、どうなんだろう。以前は、鳥の歌や木々の声や岩の呟きなんかが聞こえたんだけどねえ。アヤは亡霊の声みたいなもの、聞いたこと、ある?」
娘は話題に入りたかったらしく、頑張って声を出す。
「あるよ。おじさんには言わなかったけど。怖がるといけないから」
ンドペキは、娘がイコマをおじさんと呼ぶのを、はじめて聞いた。
「怖がらないよ」
「だって、昔」
バードは息が切れたのか、荒い息遣い。
「昔、なにがあった?」
「いやあ。僕はそういう感受性が鋭いって、アヤに言われたことがあって」
他愛もない会話で、娘の気を紛らわしている。
付っきりのレイチェルの気分も。
今度はスゥが話を続けた。
「ねえ、チョットマのパパは、大昔、聞き耳頭巾を被ったことがあるんでしょ」
「えっ、ん、まあ」
「そんときのこと、話してよ」
ある山奥の村で起きた殺人事件で、聞き耳頭巾が大活躍したという話。




