59 「撃つな」
ンドペキは、少し緊張していた。
ハクシュウの意図が明確ではなかった。
サリの捜索を名目にした隊列訓練にもかかわらず、ハクシュウは完全武装を指示していたからである。
あの日、ンドペキはサリを葬ろうとしていた。
その意思は、当局には感知されていたかもしれない。しかし、隊長は知りえないはず。
当局からハクシュウに、何らかの情報がもたらされたのだろうか。
完全武装。
これは何を意味するのか……。
隊列はハクシュウを中心に、左翼にンドペキ、スジーウォン。右翼にコリネルス、パキトポーク。
ハクシュウとスジーウォンに挟まれつつ疾駆しながら、ンドペキは、まさかという思いを捨てきれないでいた。
まもなく川を渡ることになる。
大西洋に注ぐ大河、シリー川の支流。
本流のシリー川はアップット高原の向こう側を東に向かって流れ下っている。
ただここも支流とはいえ、川幅は二キロほどあり、流れも速い。
水面の上を飛行するため濡れることはないが、土や岩盤と違って反発係数が異なるため、体のバランスは取りにくい。
ん!
ゴーグルに白い点が光った。
真正面。
距離にして八百メートル、川面上。
誰かいる!
マシンではない!
白い点が光ったということは人間か、それに近い動物。
一瞬の後に、その者が視認できた。
人間だ!
どこの!
兵士ではない。だが武装している!
ハクシュウかスジーウォンのチームの誰かか!
やはり!
俺を!
そんな考えが頭に浮かび、ンドペキは銃を構えた。
人間を撃つことに一瞬のためらいがあった。
その刹那、脳に滑り込んできた言葉。
「撃つな」
女の声だった。




