58 深入りしたくない話
アヤは、アンドロの方が全般的に優秀な人材が多い、と話してくれた。
「仕事ができるという意味でね。人間らしい感覚とか、やさしさとか弱さとか、そんな意味では彼らは、んー、平板な感じがするけど」
「人間臭くない?」
「うーん、ちょっと違うかな。人間ってさ、仕事イコール業績、イコール権力。とか、イコール名声という方向に繋がりやすいじゃない」
「まあね」
「つまり、待遇とか、獲得するもの、を志向することにかけては、今や、アンドロの方が強いみたい」
「へえ」
それって、まずいんじゃないか、とイコマは言いかけてやめた。
アンドロに対して批判的なことを言うのは避けておいた方がアヤのため。
ましてや、人造人間ごときが、と聞こえかねないことは口にするべきではない。
「仕事場の友達は、メルキトもいるけど、アンドロもたくさんいるよ」
と、アヤも言う。
アラートシステムに聞かせる言葉かもしれないし、本当のことかもしれない。
ポツリと言い出した。
「親友がいるんだ」
「おっ、いいね。今度、紹介してよ」
「うん」
言い出しておきながら、アヤの口は重い。
「そうしたいんだけど……。話しておく。なかなか、外には出て来れないやつなんだ」
「アンドロ?」
「ううん。女性なんだけど、とても忙しいみたいで」
イコマは、重ねて聞くことはしなかった。その代わり、話題を変えた。
「ところで、街の外に出てみようか?」
チョットマなら、ふたりを連れ出してくれるかもしれないと思ったのだ。
「出るのは、まずい?」
「さあ、どうかな……。支障はないと思うけど……」
「最近、街の外へ出たこと、ある?」
「ないよ。以前は、私も兵士をしてたことがあるから、そのときは毎日。ニューキーツの街じゃなく、サイロンって街にいたとき」
「そうか、サイロンにいたことがあるのか。あそこはいいだろ。街がどことなくアジア風で」
「うん。ちょっと暑いけどね。たまには道端に花が咲いてたりね」
話がそれていく。
アヤにとって、街の外に出ることは、やはり深入りしたくない話だったのかもしれない。
「サイロンか……」
イコマはサイロンの街もよく知っている。
自分自身はどの街に属しているという概念はないし、パパと呼んで訪ねてくる「子供達」は世界中に散らばっている。
現に今も、サイロンの街にも「息子」がいる。
ぶっきらぼうな男で、心を通わすことのない相手だが。
そんなことを話すうちに時間が来て、アヤは帰っていった。
じゃ、パパ、また明日、という言葉を残して。
イコマは、アヤと郊外で話したいと切実に思った。
アヤの身の安全を考えると、ここできわどい話題に触れることと、郊外に出かけることの危険度はどちらが大きいだろうか。
ただ、ピクニックのお供を頼むかどうかは別にして、チョットマに紹介しようと思った。
親友のサリを失ったチョットマの傷を少しでも癒してあげるためにも。