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586 ノ、ブ……
スゥがまた顔を近づけてきた。
しかし、何度眺めても、記憶にないものは思い出せない。
「ダメ? 思い出せない?」
「すまない、スゥ」
「私も、再生されるたびに、少しずつ変わってきてるからなあ」
「名前を変えた?」
顔を見ても思い出さないし、スゥという名も記憶にない。
「ううん。最近はずーと、スゥ」
「じゃ、どこの街にいた?」
「ずーと、ニューキーツ」
ん? おかしい。
ニューキーツの街で娘を持ったのは、チョットマが始めてのはず……。
それに、こういう雰囲気を持つ娘は、正直に言うと自分好み。
忘れるはずがない。
やはりデータが失われたのだ。
「本当のことを言うとね。私もあなたのことを忘れていた。だけど、二ヶ月ほど前、まるで天啓のように思い出したんだ。すべてのことを」
どこかで聞いた言葉だ。
アヤと同じだ。
「私もね、あなたのことを、以前のように呼びたいな」
「呼んでみて。思い出すかもしれない」
「いい?」
「ああ」
「ノ、ブ……」
「えっ」
「ノブ!」
「ええっ!」
なんという響き。
そう呼ばれるだけで、あの日々が走馬灯のように蘇る。
しかし、ノブと呼ぶのは、ユウだけ。
スゥは!




