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585 あなたも私のことを知ろうとしない
「狂ったのかって? そう思ったでしょ。でも、変でもなんでもない」
「どうみても変だよ。僕を愛してるって。ほとんど何も知らないじゃないか」
イコマは、努めて穏やかに、そして諭すように言った。
「あーあ、あなたも私のことを知ろうとしない。私はあなたのことを、よーく知ってるのに」
「えっ、そうなのか?」
「そう。ずっとずっと以前から。ただ、このフライングアイがあなただってわかったのは、最近だけど」
イコマは思い出そうとした。
スゥがマトなのかメルキトなのか知らないが、コンフェッションボックスから会いに来ていた娘の誰かだろうか。
イコマの記憶はシステム上、完全かつ鮮明である。
忘れることはありえない。
データが失われたか?
これまでなかったことである。
名を変えているのか。あるいは容姿が違うのか。
「すまない。思い出せない。データが失われたのかもしれない」
「違うよ。失われてなんかいないよ。だって」
スゥは黙り込んでしまった。
「だって?」
イコマは先を促した。
いずれにしろ、自分をパパと呼んでくれていた人のことを忘れるとは、信じられないことだった。
もしそうなら、ぜひ教えて欲しい。




