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576 あんなものを信じるなんて
「何かあったんですか?」
「神の国巡礼教団を憎んでいる」
当時、神の国巡礼教団を憎んだ者はたくさんいた。
オーエンに限ったことではない。
肉親が、いや肉親の精神や心が奪われてしまったのだから。
「彼の妻がカルトに嵌ってしまった。宇宙へ飛び出していったんだ。人から聞いた話だけど」
「そうだったんですか」
「あんた、奥さんや子はいるのかい?」
「……」
イコマはすぐには答えられなかった。
しかし、ライラも答えを期待していたわけではない。
「オーエンは、それはそれは悲しんだそうさ」
思い出話モードに入っていく。
「あんなものを信じるなんて、どうかしてると思うが、それはこちらが正気だから言えること。狂気を一度でも吸ってしまったら、どんなことでも信じちまうんだね。恐ろしいねえ。宗教ってのは」
そのとおり。
たとえ、その教義がでたらめで固めたまやかしであっても。
誰にでも心に隙はある。
そこに一旦入り込んだ神の教えという類の狂気は、心の隙間を押し広げ、まっとうな心を飲み込んでしまう。
ついには心そのものを奪ってしまうものなのだ。
ライラが大きな溜息をついた。
しかし、話はまだ続く。
「あたしゃ、心配なんだよ。パリサイドが帰ってきたことで、オーエンがまた憎しみを増幅させやしないか、ってね。もう手遅れかもしれないがね」




