57 今度は少し味の違う涙を
しかし、アヤの肉体が再生されるたびに、記憶は薄れていった。
そのことに、アヤは悩み続けていた。
やがてアヤは二度目の結婚をし、子をもうけないまま再び別れ、心に砂混じりの風が吹くようになっていった。
そして、ついにその日が来た。
毎日、必ずなんらかのアクセスをくれるアヤから、連絡が途絶えたのだった。
それは、イコマを忘れてしまったことに他ならなかった。
アヤのIDは失われていた。
肉体は再生され、IDが変更になったものと、イコマは考えようとした。
まさかアヤが再生不許可になったはずがない。
ましてや自死は。
イコマは、優だけでなく、アヤも探さねばならなくなった。
しかし、その手がかりはあまりに乏しかった。
どこに住み、どんな名前を使い、どんな職業についているかも知れない。
優がまだどこかで生きていて、自分のことを想ってくれている。
その確信になんら根拠はなかったが、イコマはそう信じ込むことによって正気を保ち、日々を送る糧としていた。
しかし、アヤの場合は。
生死さえわからず、たとえ生きているとしても、彼女にはすでに記憶がない。
アヤを探すことの現実的な難しさ以上に、取り組む意義を見出すことが難しかった。
あれから、五百余年。
イコマは自分の心の中を覗き込んでみた。
自分はアヤを探し続けていたか、と。
優を信じるのと同じように、アヤを心底から信じ続けていたかと。
その答えは明白だった。
イコマは再び、今度は少し味の違う涙を流した。
だが、思う。
もう、過去のことはいい。
今まさに、アヤと再会したのだから。
さっきまで、この部屋にいたアヤのことを思わなくては。
彼女にしてやれることは、なんだ。
親として、自分の務めは。
そう思おう。




