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568 クシというやつ
そう言いあっている間に、男が手招きをした。
「え、私?」
男が頷いた。
「はい……」
チョットマは、男の前に跪いた。
男が、顔を寄せてきた。
やばいかも。
背に悪寒が走ったが、ここは我慢。
危険はないはず。
プリブが、この男は信用できると言ったような記憶が……。
それにライラの知り合いだもの。
「チョットマだね」
囁いた男の声は、思いのほかしっとりとしていて張りがあり、しかも穏やかだった。
「はい……」
「君を襲った奴を、こちらで始末しようとしたんだが、取り逃がしてしまった。ここから先は気をつけて行くように」
「はい!」
男の顔はローブに隠されて見えない。
しかし、この場所の強烈な臭いはこの門番から発せられているわけではなかった。
男からは、芳しいとは言わないまでも、かすかに香の匂いまでした。
「あの、そいつ、誰なんでしょう?」
「ん?」
知らなかったのか、と男は言った。
「クシというやつだ」
クシ……。
やはり、あいつか……。
名を聞いただけで、チョットマは恐怖を感じた。
その名に呪いがかかっているかのように。
しかし、なぜ私をつけ狙う。
それが分からないことが、恐怖を増幅させた。




