566 もう少し、楽しい反応をしてあげればよかった
ホトキンの間を通り過ぎ、エリアREFの居住区に差し掛かっている。
これまでのところ、拠点となりうる場所はない。
「ここが、プリブの部屋」
もちろん、チョットマは部屋を開けてみる気はない。
衣装類が残されているだろう。
作ってくれたシャワーブースも。
それを目の当たりにすれば、心が塞ぐ。
「開けられるのか?」
ところが、ネールが聞いてきた。
「番号が変わってなければ」
そう答えたものの、気乗りはしない。
「もう荒らされてるわよ」
アヤの部屋がそうであったように。
「それに狭いし」
しかし、ネールは開けろという。
「拠点とはいかないまでも、なにかの役には立つかもしれない」
チョットマはプリブが教えてくれた通りにドアノブを回した。
「よっ」
開いた。
一見したところ、部屋の中はあのときのまま。
「アンドロの手は、ここまでは回って来ていない、ということだな」
チョットマは、プリブの前で裸になったときのことを思い出して、ひとり赤面した。
あのとき、私は興奮の極みだった。
聞き耳頭巾の布を被っていたおかげで、いろいろな恐ろしい声を聞き続けた。
挙句、どうにでもなれ!という気持ちだった……。
この先にはごみ焼却場。
プリブの背におぶわれた、あの鉄の橋。
そして彼が言ったこと……。
恋の照り焼きは、君がかじったリンゴのような味……。
告白ともつかない、他愛ない一言だったが、私はそれにまともに取り合わなかった。
あんなふうに私を庇ってくれるのなら、そして死んでしまうのなら、もう少し、楽しい反応をしてあげればよかった……。
橋の足下には、あの時と同じように傲然と炎が上がっていた。




