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554 ご武運を祈ります
レイチェルは、微笑んでいる。
気丈な女だと思った。
さすが長官だけのことはある。
年長者ばかりの中で、しかも数百年も生きてきたマトやメルキトを相手に、またアンドロの集団を相手に、街政府を取り仕切ってきたのだ。
この若さで。
これしきのことでは動じないのだろう。
「私の出発は十九分後です。お見送りは結構です。直前にまた顔を出します」
レイチェルの前で、始めて敬礼をした。
レイチェルも「ご武運を祈ります」と堅苦しく応えたが、背を向けたンドペキに再び声を掛けてきた。
「死なないでね」
ンドペキはニッと笑ったが、振り返りはしない。
小さく手を挙げた。
「どうせどこかに行かなくちゃいけないなら、あなたと一緒に、ね。新婚旅行じゃなくても」
「……」
「それにさ、私、ここで暮らすのもいいかなって」
ンドペキは最後まで聞かずに、扉を閉めた。




