52 墨色のTシャツを着ている!
IDを打ち込む。
指が震えている。
何を、どう話せばいいのか。
あの会話の断片を見つけてから、そればかり考えていたのだが、最初の呼びかけ方が分からない。
心を決めかねていた。
すでに、五百年ほどの年月が流れている……。
業務の空き時間に、現在のおじさんの思考を盗み見ることはできた。
しかし、そうはしなかった。
もちろん作業記録が残り、それを見た者に不審を抱かせるかもしれない。
それに、自分の父親代わりになってくれた、愛してやまない人のIDをデータベースに打ち込むことはとてもできなかった。
なにより、おじさんに謝らなければいけない。
どんなことがあっても私が守ると言ったにもかかわらず、わずか百年も経たぬうちに、その存在も、名も、そして何もかも忘れてしまったのだから。
声が震えた。
「こんにちわ」
そんなありふれた言葉で、おじさんに話しかけた。
モニターの向こうには、初老の男性が映っている。
頭髪は半ば禿げ上がり、貧相な体格をしている。
しかし血色はよさそうで、かすかに微笑んでいた。
昔と同じように墨色のTシャツを着ている!
私の容姿は、おじさんが覚えている昔の私のままだろうか。
「はい。こんにちわ」
声が返ってきた。
ああ……、おじさん……。
思わず声になりそうになったが、あくまで他人行儀な挨拶を。
「お久しぶりです。パパ」




