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50 おまえを襲ったのは、たぶん

 俺は何者なんだ。

 いったい、何のために生きているのか。


 マシンを倒し、集めたメタルをカネに換えるだけの毎日。


 先が見えないだけでなく、過去さえも失ってしまった俺に、生きていく目的などあろうはずがない。

 そんな日々がもう数百年も続いているというのに、これからまだ数百年、あるいは未来永劫続くのか。


 人生は旅だというが、とんでもない。

 監獄の中を歩き回るだけ。



 俺は死にたい。

 死んで、安らかな死後の世界に旅立ちたい。

 死後の世界など、あるとはこれっぽっちも思わないが、もう、生きていくのはごめんだ。



 耐えられない。

 虚しすぎる。



 今まで、心が失われ、闇に沈んでいった人間をたくさん見てきた。

 俺は、そうはなりたくない。

 そうなる前に、自分の肉体を消滅させてしまいたい。



 ところがどうだ。

 そんな俺に、死ぬ方法がないときている。

 もう十分だというのに。


 残された道はただひとつ。

 再生されないこと。

 人殺しの罪を背負って、ようやく死ねるというのは、なんという不条理。





 チョットマは黙ってついてくる。

 こいつなら、いいかも。


 しかし、サリならともかく、こいつは並大抵のことでは倒せない。

 敏捷性が半端じゃないからだ。

 いや、だからこそ、こいつを殺しても誰も疑わないかも。





 死にたい。


 しかし、人殺しと罵られて死を待つのは耐えられない。

 プライドはある。


 生きてきた証なんぞには興味はない。

 ただ、俺の生を汚したくはないという思いがあるだけ。


 自分勝手な考え。

 自分自身に死をもたらすために、人を殺す。

 しかし、他人には、特に部隊の連中には知られたくないのだ。


 そんな都合のいいことを考えてしまうのは、すでに俺の思考も狂い始めているのだろう。

 いや、まだだ。

 他人の目など気にしている間は。




 人は、徐々に狂っていくのだろうか。

 あるいは、ある朝目覚めると、昨日の自分がそこになかったかのように、狂気は突然やってくるのだろうか。

 目に見える景色は違って見えるのだろうか。

 紫色の霞がかかったようにでも見えるのか。


 俺は狂人になりたくない。

 しかし、そうなるのは遠い先ではない。

 きっと。

 自分のことだからわかる。

 夜、眠るのが恐ろしい。

 朝になれば、俺は昨日までの俺ではなく……、と考えてしまう。


 もう、時間はない。





「ねえ、ンドペキ」

 チョットマが話しかけてくる。

「なんだ」

「今度の会談、頑張ってください」

「うむ」


 何を頑張れというのか。

 その日、俺はもう狂い始めているかもしれないぞ。



「すごいことですよ。指名されるなんて」

「意味がわからない」

「きっと、ンドペキは偉い人なんですよ」

「まさかな」

「覚えてないんでしょう? 昔の自分。もしかすると、ワールドの大統領だったりして」



 チョットマが他愛のないことを言ってくる。

 返事をするのも面倒。


「まあ、そのときがくれば分かるだろう」

 と、応えておいて、俺はまた妄想にふけった。




 再生不可処分の理由は、公にされるだろうか。

 ハクシュウは知ることになるのだろうか。

 隊員を殺せば、連絡がいくのだろうか。

 普通は、再生されない理由が明らかにされることはないはずだが。


 では、一般市民ならどうか。

 再生不可理由は公表される。

 人知れず死ぬ、には不都合だ。


 それだけ、兵士の立場は軽く見られている。

 そんなことはどうでもいい。

 もう、何度も同じ考えをなぞってきたのだ。





 街に着くと、チョットマがぺこりと頭を下げた。

「気をつけろよ」

「ハイ! ありがとう!」


 立ち去るチョットマに、俺は声を掛けた。

「待て」

 先ほど思いついた考えを伝えておこうと思った。


「おまえ、クシという男、聞いたことがあるか?」

「クシ? いえ、ないです」

「おまえを襲ったのは、たぶん、そいつだ」

「えっ、だれなんです?」

「東部方面隊の隊員だった男だ」

「ええっ、その人が私を?」

「なんとなく、そう思っただけだ。何はともあれ、気をつけろ」

「ハイ!」

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