504 ま、ま、ま、まずいことに……
「なぜ、ここにレイチェルがいるんですか! ここは東部方面隊の作戦会議じゃないんですか!」
うわ! まずいことを言ってしまった。
でも、口から出た言葉は回収できない。
たちまち顔がほてった。
ど、どうしよう。
何か言わなければ。
しかし、その前に声が上がった。
「私もそう思う」
シルバックだった。
ンドペキ、ごめんなさい。
どうか、上手く収めて。
しかし、ンドペキは悠然としている。
怖い目で睨んではいるが。
チョットマは立ち上がった。
謝らなければ。
ところが、また別の声が上がった。
「俺もそう思うな。これじゃ、いつものように自由に発言できない」
ようやくンドペキが声を出した。
「知っての通り、レイチェルはニューキーツの街の長官であり、軍の総司令官だ」
大広間がざわついた。
レイチェルが軍の最高指揮官だということは誰でも知っている。
あえてンドペキがそう説明したことに反発するムードが漂った。
「そんなことは百も承知。我々はレイチェル閣下の指揮下にある。しかし、ここは東部方面隊の作戦会議。作戦の中身は我々で決める」
そんな声が上がった。
「レイチェルは何も発言していない」
ンドペキがそう言ったが、会場は収まりがつかなくなりかけていた。
「そこにおられるだけで、発言がしにくい。そう感じる隊員がいるとしたら、問題ではないか!」
猿人顔の男。
「レイチェル閣下のご臨席、これは名誉な」
「そういう問題じゃないだろ。俺は俺たちの隊の自由な空気が好きだぞ。それが損なわれるなら」
「私も同感」
「しかもこの重大局面で議論を尽くせないのは、本末転倒」
「ハクシュウやプリブは、どう思うだろう!」
狼男。
さすがにこの発言は、乾坤一擲、止めの一撃。
誰の心にも、染み入っていく言葉。
大広間は能の開演前のように、張り詰めた空気の中、静まり返ってしまった。
ま、ま、ま、まずいことに……。




