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49 狂いの妄想

 ンドペキは、チョットマの話し方がぎごちないと感じた。

 なにか、隠している。

 

 しかし、チョットマの瞳にどんな心が浮んでいるのか、窺うことはできない。

 電波を通して流れてくる声も、いつものチョットマの声。



 あの敵。

 かなりの熟練。

 あれほど破壊力のあるエネルギー弾を使うマシンは、この辺りにはもういないはず。

 もしいたのだとしたら、ニューキーツ軍東部方面攻撃隊の沽券に関わる事態。



 ンドペキは思いをめぐらせた。

 スコープにも反応がなかった。

 つまり、監視人工衛星のカメラに捉えられなかったということ。GPSも役に立たなかったということ。


 マシンの類ではありえない。


 しかも、あの状況では地下に逃れたとしか考えられない。

 通常、マシンは基本的に逃避行動をとることはない。

 命が惜しい、とは考えない。


 それらのことを考えると、チョットマを襲ったのは「人間」ということになる。

 しかし……。




「おまえ……」

「ハイ!」


 誰かに襲われたことがあるのか。

 恨みをかうようなことがあるのか。


「ないです!」

「だろうな」



 これまでチョットマを部下として見てきたが、そんな様子はなかった。

 あるとすれば、本人も気付かないようなことだろう。

 典型的な天真爛漫で、悪意というものを知らない、のがチョットマなのだから。



「しかし」


 呼びかけておきながら、ンドペキは次の言葉がなかった。

 人に襲われるという、しかも、あのような激しい方法で。

 重い現実。


 無理やり口から出た言葉に、我ながらげんなりするが、しかたがない。


「怪我はないか」

「ハイ! 全然、大丈夫です!」




 襲ったのは自分ではないか。

 ふと、と考えてみた。




 襲っておいて、救援に向かう。

 チョットマは頭から俺を信じている。

 好都合じゃないか。

 そう、サリを殺そうとしたときと同じように。


 今はダメだ。

 少なくとも、ここでは。

 見張りの兵士がどこかにいる。





 妄想だ。


 自分でも、倒錯した思考だと思った。




 しつこく追いすがってくる自分の思考に手こずる。

 こういうときは、行動を起こすに限る。




 チョットマは黙って、指示を待っている。

 いずれにしろ、危険は去ったと考えていいだろう。

 今日のところは、おとなしく街に帰った方がいい。


 走ろう。

 走って、邪念をふるい落とそう。

 今は。




「帰るぞ」

「ハイ!」


 ンドペキは駆け出したが、一歩出遅れたチョットマが、声を掛けてきた。

「あの、ンドペキ」

「ん?」


 チョットマが追いすがってくるが、ンドペキはスピードを落とすことなく、たちまちアリーナを出て瓦礫の街を抜けていく。



「あの」

「だから、なんだ」

「ありがとうございました!」

「……」



 仲間を助けるのは当然の行為。

 それを口にするほど、ベタベタした関係ではない。





 こいつを殺すのはどうだ。

 つい、それを吟味してしまう。

 邪な思考がまた頭をもたげてくる。



 そもそも、あの日、俺はサリを殺そうとした。

 理由は特にない。

 心を捉えていたのは、自分が死にたい、ということだけ。

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