490 おびき出す餌!
「良い人と巡り合い、恋し、愛する人と結ばれ、子供を生み、育てていくという、人として当たり前の暮らしが無いのだということに」
レイチェルは努めて淡々と話している。
包帯の中の目に、その努力が見える。
「そして自分達には友情さえもないことに。彼らは、それらを手に入れたいと思っているのです。そのための権利を。あるいは権力を」
「与えればよかったのでは?」
「私はそれもいい、と思っています。今となっては。しかし、できません。愛があるなら、憎しみや怒りの感情も生まれます。それは表裏の関係ですから」
「そうですね」
「そして、彼らが自らの意思で繁殖を始めれば、地球はアンドロが完全支配する星になるでしょう。そこには抵抗感があるのです。それに、我々人類は、純血を尊びます」
ほとんどのホメムはそう考えている、とレイチェルは言う。
自分は違う、と言っているようで、イコマはレイチェルのずるさを感じた。
「彼らは私をあそこに幽閉し、私の偽者を作って、ことをスタートさせようとしているのでしょう」
「偽者を……」
「そうです。バードは私のたった一人の親友です。彼女をまず、あそこに閉じ込め、私をおびき出した。私は彼らの謀略にまんまと引っかかりました。たいした護衛もつけないまま、彼らの本拠に乗り込んでしまいました。そして、こんなことになってしまいました」
そういって唇を噛んだ。
そうだったのか!
アヤは、レイチェルをおびき出す餌だったのだ!
もうレイチェルに対して、怒りを感じなかった。
レイチェルの、感情を抑えた話しぶりに、彼女も犠牲者なのだと思う気持ちが生まれていた。
ずるい面もあるが、それはかえって正直さの現われ、とも思えた。




