49 もはや妄想となった思いだけを抱きしめて
ワールドの恒久的平和を守るため、人々は何をしたか。
地球統一国家誕生後、半世紀も経ずに、マト、つまり不死の体を持つ人間は、個人レベルで世界各地に無差別に転住させられたのである。
民族による、あるいは元の国や地域による、あるいは一族による団結を完全に解体するために。
個人をバラバラにすることによって、不穏の目を摘み取ろうとしたのである。
二十二世紀半ばのことだった。
綾は、アフリカ大陸に新造されたある街に。
イコマのような記憶の人、つまりアギは、実質的に定住地は持つ必要がなかったが、便宜的に定めておく必要はあった。
その時点ですでに、日本国という地域は存在していなかった。
あれほど隆盛を誇った東京という都市も消え失せてしまっていたし、かつての国土自体もかなりの部分が海に沈んでいた。
グローバルな存在となったイコマは、便宜的な居住地を、綾のいるジュラシックビーチに定めたのだった。
あれから数百年の年月が流れた。
優を待つこと、六百年。
すでに綾の消息は知れない。
イコマの意識は「英知の壺」を離れた。
いつもと同じように、はるかかなたの過去の記憶をなぞり、希望が再び訪れたあの日々の匂いを嗅ぐと、生きてゆく勇気を奮い立たせた。
優は生きている。
いつか会える。
もはや妄想となった思いだけを抱きしめて、イコマはまた地上に降り立った。




