477 おでこにキス
「残された任務は、チョットマを見守ることだけとなりました」
「!!」
「!!!」
部屋中に、吸い込んではいけない棘がばらまかれたようだった。
誰もが息を止めた。
とうとう、ハワードはそれも言ってしまうのだ。
チョットマは毒を含んだ空気を恐れるかのように、両腕を体にきつく巻きつけた。
聞きたくないというように、体を縮込め、こわばらせた。
そして、俯いてしまった。
緑色の長い髪が表情を隠している。
しかし、イコマはハワードの言葉を遮ろうとは思わなかった。
チョットマも、自分にハイスクール卒業以前の記憶が全くないことに気付いている。
ハワードから話しかけられ、それとなく見られていたことも。
いずれきっと、チョットマ自身、事実を知る。
それなら、早い方が……。
それに、サリと同じ、今のタイミングの方が……。
チョットマを見守ること。
それがレイチェルから与えられたもうひとつの任務。
このハワードの言葉の意味は、誰にでも分かる。
サリと同様、チョットマもレイチェルのクローン。
そして、レイチェルの恋人探しのための人形。
だから、チョットマとレイチェルは似ているのだ。
だからこそ、レイチェルはチョットマに、さまざまなことを言ったのだ。
サリと同じ隊の兵士になるとは、思ってもみなかった、とか。
別の隊にスカウトされるのが理想だったのよ、とか。
私の個人的なことで、チョットマは用無しになった、とか。
そして明確に、サリもあなたも同じ人を好きになってしまった、と言ったのだった。
初めてレイチェルと面会したとき、面識はないはずなのに、レイチェルは明らかにチョットマのことを知っていた。
そのことに違和感を持ったのだった。
チョットマ……。
顔を上げておくれ……。
アヤが手を握ってやっている。
スジーウォンが大きな声で言葉を掛けた。
「チョットマ! あんたはあんただからね! 気にすることじゃないよ!」
「君は、僕の娘だよ」
イコマも言葉を添えた。
イコマは思う。
バーチャルであっても、身体があればいいのに。
そうすれば、抱きしめてあげられるのに。
涙を拭ってあげられるのに。
ンドペキが立ち上がった。
しゃがんだままのチョットマに近づき、髪に触れて顔を上げさせた。
おでこにキスした。
そして、自分の胸に顔をうずめさせた。




