473 もう、自分のもの、だから
サリはレイチェルの恋人探しのためのクローン。
その任務を果たしたため、一旦、強制死亡処置となった。
秘密裏に製造されたクローンのため、サリの基本データはなかった。
これが僕の推論の根幹。
ちなみに、サリの再生が遅れたことには理由がある。
自動的に再生される対象ではない。
なぜなら、レイチェルがサインした強制死亡処置。
ところがそのころ、レイチェルは多忙を極めた。
パリサイドの問題。
当時、一般にはまだ伏せられていたが、パリサイドのコロニーが形成されていくのを政府が発見できなかったはずがない。
政府内部では、いや、ワールドの会議では、それが喫緊の課題になっていた。
パリサイド側の要求は、概ね予想がついていたと思う。
一年前には、友好のためと称して使節団が地球を訪問しているのだから。
連日、ワールドの首都であるアームストロングで会議がもたれていた。
レイチェルはほとんどそこに滞在したきりだった。
バーチャルでの会議もあったろうが、さすがにこのテーマは、実際に会って話し合われていたようだ。
当時、ニューキーツの行政庁内にレイチェルが不在がちだったことは、アヤから聞いていた。
単純な話だ。
レイチェルは、サリの再生許可のサインをする時間がなかっただけなのだ。
むろん、サリの再生はレイチェルにとって、今や急ぐ必要はない。
もう、ンドペキは自分のもの、だから。
「僕はこの推論を仮説として据える。では、これを裏付ける事実はあるのか」
この話をすれば、今この部屋に集まっている者の中に、傷つく者がいる。
成り行きに任せるしかないが、どうか、傷は浅いものでありますように。
そう祈るしかない。




