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46 どこかで生きているはず

 思い出すことを止めた者。

 考えることを諦めた者。


 自分が何者かを思い出せなくなったとき、人は往々にして人間としての尊厳さえも失っていく。

 アギにとってもマトにとっても、よほどの強い生きる目的がなければ、退行はあっても進化はない。



 そんな彼らとの面談。

 縁もゆかりもない「息子」や「娘」との会話。

 アギとしての義務であるが、それは苦痛ではなく、逆説的ではあるが、イコマにとって自分の正気を保つ意識付けとなっていた。




 イコマにとって、唯一の希望。

 生きる目的。



 それは、幸せだったあの三人の暮らしを取り戻すこと。

 同じような暮らしは望めないまでも、どうしてたと言いあって、笑いあうこと。

 記憶をなくした綾はもう無理でも、ユウだけはなんとしてでも探し出して……。

 きっと彼女は、どこかで生きているはずだから。



 そんなちっぽけな望みだけを頼りに、生きている。


 建築家としての夢や、様々な望みはすべて消え去った。

 あの幸せの感情を一瞬でもよいから味わいたい。

 ただそれだけを胸に、変わっていく世界を見つめているのだった。



 サリという兵士を詳しく知りたいと思ったのも、サリのしぐさがユウのそれに似ているような気がしたから。

 ただそれだけのことでも、イコマは望みを繋いだ。

 そうして、自分の生きる力を振り絞っていた、といってもよい。


 英知の壷に向かうのも、記憶を味わうためだけでもない。

 六百年ほど前、日本の金沢郊外で、光の柱の守人、当時は女神と呼ばれる存在となったユウに出会った。

 あの頃と今の光の柱は、機能も規模も大きく変わっている。

 しかも、日本のそれは今はもうない。

 ユウが今もどこかの光の柱の守人である証しなどまったくなかったが、もしやひとかけらのヒントが落ちてやしないか、とも思うのだった。

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