456 近づいてくるものあり!
その夜、洞窟ではささやかなパーティが開かれた。
チョットマは、ンドペキの心遣いがうれしかった。
ここに潜んで早やひと月と少し。
朝も昼もない暗闇の中で、薄暗い照明だけが頼りの暮らし。
いつ何時、アンドロ軍が攻めてくるかという緊張感。
消去される不安に押しつぶされそうな毎日。
溜まりに溜まったストレスを霧散させる手段もない日常。
不安要素だった消去と再生のシステムがパリサイドによって破壊され、少なくとも洞窟の外に出ることができるようになった。
隊員達の心をどれだけ浮き立たせたことか。
行動範囲が広がるだけでなく、街のアンドロへの攻撃を仕掛ける上でも、非常に大きな意味を持つ。
新しい作戦を立てることができる。
戦いに勝つ見込みが高まる。
チョットマだけではなく、隊員達全員が待ち望んでいたことだった。
「作戦会議はなしだ。ささやかだが、今夜は楽しもう!」
短いフレーズで、ンドペキがパーティの開会を宣言した。
「明日の作戦会議は、正午から始める。間違わないように」
そういって、たくさんのテーブルの周りに集まった隊員達の輪の中に入った。
連夜、全員での作戦会議はンドペキが必ず実行してきたこと。
話すことはそれほど多くはなかったが、顔を合わせることが重要だからと。
チョットマも賛成だった。
士気を高いままに保つだけでなく、閉塞感のある暮らしに生じがちな不都合や不安を少しでも和らげるために、様々なことが話題になった。
そこで話すことによって解決することもあったし、話すことで心が休まることもあった。
急ごしらえのテーブルが、大広間に並べられている。
料理も飲み物も、いつになくたくさん並んでいる。立食形式だ。
照明もいつもより多めで、暗さに慣れきった目には眩しいと感じるほど。
チョットマは、ンドペキが自分の近くに来てくれたことがうれしかった。
「ねえ、ンドペキ、明日から新しい暮らしが始まる、そんな気分ね」
直ちに戦闘に移れる装備を纏ったままの隊員達も、パーティに参加している。
洞窟に向かってくるものを捕捉するレーダーシステムは上手く稼動し始めた。
これまでは消去の恐れがありながらも、洞窟の外に数人は展開していたが、これからはその心配はなくなる。
監視ブースにいる数人の隊員達には気の毒だが、彼らを除く全員が大広間に集結していた。
レイチェルやアヤ、そしてスゥもいる。
大広間は晴れやかな空気に包まれていた。
隊員たちが叫んだ。
「ンドペキ! おまえの話を聞きたいぞ!」
「何か話せ!」
「声を聞かせろ!」
ンドペキが場の中央に向かった。
チョットマも期待した。
きっと、心が温かくなることを言ってくれるはず。
「俺は……」
何を言うだろう。
言ってくれるだろう。
「俺は……、俺は……」
「俺は、なんだ!」
「俺は。俺はスゥを幸せにする!」
えっ。
えええええっ!
一瞬の間をおいて、歓声と指笛が沸き起こった。
「そのためにも、俺達は街を奪還する!」
おおおっー。
ンドペキの宣言に、隊員たちは盛大な拍手を送り、肩を叩きあった。
「おっしゃー!」
「やってやろうぜ!」
レーダーブースから連絡が入った。
「近づいてくるものあり!」
そのすぐ後の言葉に、たちまち膨れ上がった緊張感は消えた。
「KC36632です!」
パリサイドの訪問が告げられた。




