430 何もしてやれない
イコマはアヤの部屋にいた。
アヤは眠っている。
命が助かったことは確実。だが、容態はまだ一進一退。
眠っていることも多い。
寝顔を見つめながら、イコマは後ろめたさを感じていた。
ユウと再会できたいきさつをまだ話していない。
隠し事をしているようで、心の中でアヤに謝り続けなくてはならなかった。
ユウと再開した日、ユウは、自分のことをもっときちんと話せるようになってから、と言った。
まだ波乱があるのだろうと思ったが、まさにそのとおりになった。
ンドペキが自分のクローンだったとは。
ユウのいう、自分のことというのがそのことであるなら、もうアヤに話してもよいということになる。
ただ、話すときはユウと、そしてンドペキが一緒のときに話すべきなのだろう。
それに、ンドペキと自分が思考をひとつにした存在、というにはまだ実感が乏しかった。
それが確固なものになるまでは、アヤとしてもンドペキとどう対処していいか、戸惑うことになる。
今、確かにンドペキの思考は自分のものとなりつつある。
もともとアギは三つの思考体を持っている。
それらは、例えば他の場所にいて人と話をし、全く違うことを考えていたとしても、すべて自分の考えていることとして何の違和感もなかった。
共存しているというのではなく、融合しているというのでもない。
すべては自分。
しかし、ンドペキはどうか。
自分がンドペキであるという意識には、まだ乖離がある。
行動や思考は手に取るようにわかるが、それはあくまでンドペキであって、自分ではない。
とはいえ、別人格の思考や感情を覗いているというのでもない。
自分の思考であり、感情であることもわかっている。
ただ、その間に、まだ薄い膜のような隔たりがあるという感触なのだ。
ただイコマは、その膜がいずれなくなるだろうとも感じている。
なぜなら、ンドペキは今どうしているのだろうと、意識するまでもなく、自分の思考として感じ始めていたからである。
フライングアイに乗せた自分の思考と同じように。




