42 代表指名
木々の間から垣間見える生物は、人間のように二足歩行をしていた。
人より一回り大きく、一様に黒い肌をしている。
脚は短いが腕は異様に長い。髪や体毛はなく、むろん衣服はまとっていない。
こちらに関心を示すものもいるが、戦闘の気配はない。
それぞれが淡々と何らかの作業をしているようだ。
ンドペキはすでに、ハクシュウが自分を攻撃することはないと確信していた。
もし攻撃するつもりなら、大量の生物がいる前で、派手なまねをするはずがない。
彼らが戦闘用の人工生物であったら、高みの見物をするはずがない。
あの数では、こちらが大混乱する。
全員無事に街まで帰れる可能性はないに等しい。
今日の作戦の本当の目的は、このコロニーを偵察する、あるいは反応を見ることだったのではないか。
だからこそ、完全武装だったし、稜線を越えてからの行動は未定だったのだ。
軍の中枢からの指令は、ハクシュウにだけ伝えられる。
その指令に添った作戦だったのかもしれない。
ンドペキは、コロニーを凝視しながらそんなことを思った。
と、森を出てくる者がいる。
姿は異様だが、普通の腕を持っている。黒い裸体が背筋を伸ばし、歩いてくる。
やはり、ヒトか……。
ゆっくりと川原に近付き……。
胸の辺りが膨らんでいる。
女か……。
ん!
女は、そのまま水面に歩みを進めてくる。
まるで地面を歩くように。
彼女が歩く部分だけ、水面にガラスを置いたように。
部隊は静まり返っている。
ハクシュウも沈黙したままだ。
女はシリー川の中央部で立ち止まった。
そして、メッセージを送ってきた。
「私はJP01と申します」
はっきり聞き取れる。
「私達はあなた方と話をしたいと思います」
やわらかい声。
どういう仕組みか、生の声のように聞こえる。
「ニューキーツの街のレイチェル氏とンドペキ氏を会談の代表として指名させていただきます。明後日の正午にここでお待ちしています」
言うが早いか、女の姿は、消えた。
「退却! 稜線を越えた時点で、ケーオーフォーメーション解除。ピー隊列に戻る。目標地点、アリーナ!」
ハクシュウの命令が発せられた。
俺が?
何? 代表?
わけがわからない。
彼らは何者?
レイチェルとはだれ?
「今日見聞きしたことは全員、口外無用。お付きの人も頼みますよ」
稜線を越えた時点でハクシュウが言った。
「ンドペキ。いろいろ聞きたいことがある」
問い質されたが、わからない、としか答えようがなかった。