428 並外れて気難しい娘
意外な質問に、ンドペキは面食らった。
レイチェルのことを知っているかと問われても、何も知らないのと同然。
知っていることといえば……。
ううむ、と唸ってしまった。
「聞き方があいまいでござった。ンドペキはレイチェル閣下のものの考え方をどれくらい理解しておるのか?」
「ん?」
「失礼な言い方をお許しくだされ。彼女が最も大切にしていること、彼女の行動規範がどこにあるか、というような面では」
ンドペキはそんな見方でレイチェルを観察したことはなかったし、知りたいと思ったこともなかった。
正直にそう応えると、ロクモンが渋い顔を作った。
「わしが言うのもおかしうござるが、ンドペキ、それはまずうござる。彼女の思考パターンはわしらマトと、かなり異なっており申す」
ロクモンは、わしらマト、という部分に力を込めた。
「ホメムであるレイチェルの思考パターン。それは見当もつかないな」
「彼女の言動を見ていると、少しは気付かぬか」
「例えば?」
「つまらぬことに聞こえるかもしれぬが、ニューキーツ長官としての行動、軍の総司令官としての行動と、プライベートなときの言動との落差に気付かぬか」
それは言われるまでもなく、常に頭を痛めていることだ。
そしてそれが、レイチェルの真意を測りかねる原因でもある。
ンドペキは、正直にそう言った。
ロクモンが声を落とす。
彼女は自分がホメムであることを、非常に強く認識しておられる。
わしは常々、そう感じており申す。
彼女が不憫でしようがござらぬ。
ホメムであることを意識するあまり、傍から見れば奇怪な行動をとることがあり申す。
兵達の中には、レイチェル閣下がニューキーツの街よりも自分のことを重要視している、と感じている者もおり申す。
しかし、それは少し違う。
レイチェル閣下はかなり苦労して、それらを両立させようとしておられる。
わしはそう考えておるのじゃ。
彼女のストレスは相当のもの。
きわめて強い精神力で、自分自身をコントロールしなければできぬこと。
ンドペキはロクモンの言うことが理解できないわけではなかった。
イコマが探偵から聞いた話も心に残っている。
伴侶を見つけ、子供を、という話だ。
ただ、ロクモンほど、レイチェルに近い存在ではない。
初めて顔を見たのも、ついひと月ほど前のことなのだ。
心情など、わかるはずもない。
レイチェル閣下は、実を言うと、並外れて気難しい娘でござる。
わしが言うのもなんでござるが、彼女がプライベートモードになって話す相手は、非常に限られておる。
将軍の中ではわし、親衛隊の中に二人、付き人でさえ数人。
政府職員の中ではただ一人。
バード殿、あ、いやアヤ殿でござるな。
わしが見るところ、あれほどの立場にありながら、親しく話しかける相手は、この世に十人もいないのではないか。
城外では、ダンスの師範とサリだけでござる。




