41 コロニー
サリの手がかりはまったくないまま、アップット高原の稜線を越えた。
今日は、ドラゴンの姿もない。
稜線を越えると大気は幾分澄み、平原を見渡すことができた。
「停止!」
「ケーオーフォーメーション!」
「戦闘準備!」
立て続けにハクシュウの緊迫した声が聞こえた。
ケーオーフォーメーション。
強靭な敵に集団で近接して立ち向かうときや、大量の敵に囲まれたときに防戦する隊列。
ハクシュウは全軍、自分の下に戦闘態勢で集まるよう指示している。
ンドペキは、いよいよか、という考えが頭をよぎった。
しかし現時点では、ハクシュウの命令に従わざるを得ない。
ハクシュウが立つ地点に向かって突進していった。
俺は仲間を撃つのか。
攻撃されたらやむをえないか……。
全員を敵に回したら勝ち目はない。
何人かは傍観の態度を取るだろうか。
そんな思いを煮えたぎらせながら。
チームのメンバーの動きを確認した。
それぞれがハクシュウの元に向かって最速で移動している。
補給班のチョットマだけは、スピードを落とし、ハクシュウの後方に移動を始めている。
よく訓練された軍の行動として申し分ないし、どこにも不審な動きはないように感じた。
「攻撃目標、北北東十三度、距離九キロ。しかし、命令あるまで発砲厳禁!」
ハクシュウの命令が飛び込んできた。
すでにフォーメーションは整っている。
ハクシュウを中心にして集まった兵達は、互いに五十メートルほどの距離を保って停止していた。
それぞれの銃を構えて。
てんでばらばらに駒をばら撒いたようなフォーメーションだったが、それぞれのチーム内での役割分担に従って、位置取りがなされていた。
誰も口を開くものはいない。
ンドペキは、仲間の隊員達の動きに注意しながら、ハクシュウが攻撃目標として示した地点に目を凝らした。
前方五キロほど、シリー川が右手に向かって流れている。
その手前はほぼ原野と言ってよい。
対岸は見渡すかぎり森林地帯が広がっていた。
建物や塔、あるいは街の跡らしきものは見当たらない。
人工物さえないように見えた。
昔の人が眺め渡せば雄大な景色と言うだろうが、戦闘態勢を敷いているンドペキには、単調で見通しのきかぬ光景だとしか感じなかった。
敵までの距離が九キロというのは通常の戦闘では考えられない。
大量破壊兵器をむやみにぶっ放すような大昔の非効率な戦闘ではなく、近世では戦闘員のみを標的にしたより精度の高い武器を使って、近接して戦うようになっていたからだ。
攻撃目標まで距離があるとしても、確実に視認できる三キロがせいぜいで、通常は五百メートル以下である。
あの森の中に、何が潜んでいるというのだろう。
ンドペキはいぶかしんだが、スコープのモードを切り替えていって驚愕した。
何かいる!
マシンの類ではない。
それも大量に! 集団で!
千体以上はいるのではないか!
これまで、戦闘用に開発された生物とも幾度となく戦ってきたが、彼らがこれほど集団でいる光景は眼にしたことがなかった。
群れていたとしても、それはせいぜい数頭の集まり。
これほどのコロニーは見たことがなかった。
そもそも人間を含め、地球上にはほとんど動物というものは存在しなくなっていた。
「繁殖地ですか」
久しぶりにハクシュウ以外の声が聞こえた。コリネルスだった。
だれも応えない。
ジリジリする時間が過ぎていった。