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412 今がそのとき

 三人に見つめられ、ンドペキはひとり取り残されたような気分になった。

 ヘッダーを取った。


 顔に不安が表れていたのだろう。

 JP01のかわいい口が、「スゥに任せているのよ」と動いた。


「ちょっと待ってくれ。四人で話をするんじゃなかったのか」


 スゥが厳しい声を出した。

「それはもう説明した。今がそのときだから、私に任せてって」

「しかし」

「長々とおしゃべりすることが重要じゃない。大切なことは一言でも通じる」

「そうだとしても」


「……ンドペキ。じゃ、少しだけ話そうか」

「ああ、そうしてくれ」

「あなたは隊長として忙しいから、少しだけね」



 タブレットを手の平に載せたまま、

「私の気持ちを、ンドペキは本当はわかっていると思うのね」と呟くように言う。


 そう言われると、切なかった。

 もっと切ない気持ちでいるのはスゥ、ということもわかっていた。


「それに、ンドペキは私のことを思い出したいのに、これっぽっちも思い出せない。そのことを申し訳なく思ってるでしょ」

「ん、まあな」


「正直ね。私、それだけで満足するべきなのかもしれないね。あなたが思い出すのを待ちたいけど、今の状況では、とても待てないから」


 スゥの指が手の平のタブレットをいじった。



「状況は混沌としてる。あなたも私も、これからどうなるかわからない。離れ離れになるかもしれないし、最悪は死んでしまうかもしれない。あなたが私を思い出さないまま」


 ンドペキにとっても、それは辛いことだった。

 しかし、それでもいいと思ったりもしている。

 自分は過去の誰かではなく、今のスゥが好きなのだ。

 そう感じていることを知っていた。


 単に申しわけないという気持ちから来るのではなく、どんな形であれ、彼女を失いたくないという思い。

 だからこそ、森の中で聞き耳頭巾の布を被るという、妙なことまでしてみたのだ。



「ここにチャンスがあるのに。今、使わなくちゃ。明日はどうなっているかわからないんだから」

「飲めばどうなる」

「あなたの記憶を完全に復元する」

「しかし、スゥ。この話がJP01の」

 パリサイドの代表がしたかった話なのか。



 ンドペキは渡されたタブレットを見つめた。

 白い錠剤一粒。



「説明は後でする。というより、飲めば説明は要らなくなる」


 スゥの声が遠くで聞こえるような気がした。




 この話し合いが、こういう訳の分からない展開になることを、半ば予感していた。


 スゥの言葉を忘れていたわけではない。

 この間、スゥという女性の不思議に助けられ続けてきた。

 そして惑わされ続けてきた。

 いつかはその謎が明らかになるだろうとも感じていた。


 そのときとは、自分がスゥを思い出すときなのだ、と思ってもいた。




 今がそのとき。


 そう思った。


 スゥ。

 おまえを信じている。



 俺はタブレットを飲むよ。

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