40 約束とは
女はすでに目の前に迫っていた。
水面に、立ち止まっている。
隊員ではない!
ンドペキは減速した。
「ンドペキね」
言うが早いか、相手は突進してきた。
攻撃される!
銃を放った。
が、的を外したわけではないのに、相手の姿は消えていた。
「あっ」
相手ははるか頭上にあった。
回りこまれる!
ンドペキは一瞬の内に体勢を立て直し、その場に停止した。
「撃つなと言った」
また声が聞こえてきた。
相手はまだ頭上にいる。
飛び上がったときの機敏さとは違って、どことなくふんわりとした動作で飛び越していく。
「約束、忘れたのね」
そう言って、相手は地上に降り立った。
撃つわけにはいかない。
チームのメンバーに当たるかもしれない。真後ろにはチョットマがいるはず。
彼女なら避けることはできるだろうが、万一油断していたら。
ンドペキはネオ粒子サーベルを抜いて襲い掛かった。
「次に会ったときには」
相手はそう言うと、一瞬の内に遠ざかっていった。
「チョットマ! 前方注意! 不審人物接近!」
ンドペキはそう声を掛けた。
しかし、チョットマから返ってきたのは、
「はい! というか、もう通り過ぎていきました!」
というものだった。
猛烈なスピードである。
メンバーの位置確認をすると、チョットマとは三キロほども離れていた。
今まで見た人間の中では最速の部類に入る。
「誰です?」
「約束とは?」
そういった声が隊員から発せられた。
「知らん! 任務を! サリを探せ!」
ンドペキはそう応えたものの、動悸は収まりそうになかった。
どんなに激しい戦闘でも動悸を感じることなどなかった。
人間を撃つ。
そんな行為がいかに難しいことか、と思い知らされた。
ハクシュウもスジーウォンも所定の距離を保って進んでいる。
特段、行動に変化は見られない。
ンドペキは自分の位置を元の隊列に戻した。
彼らは今の事件に気がついているだろうが、何も反応はなかった。
あれはなんだったのだろう。
刺客。
そういう商売があると聞いたことはあるが、殺ろうと思えばできたはず。
殺傷能力はともかく、行動スピードという点では何枚も上手だった……。
約束とは……。
まったく理解ができなかった。