305 自分の未熟さはもちろんのこと
頬が高潮していた。
打たれたからではない。
ライラの言うとおりだったからだ。
ライラは立ち上がって、扉を乱暴に開けた。
「出て行け!」
チョットマは、聞き耳頭巾の布地を握り締めた。
「すみませんでした!」
そして、テーブルに手を突いて頭を下げた。
ライラが髪を掴んで引きずり出そうとする。
転んだチョットマは床に両手をついた。
「すみませんでした!」
「出て行け!」
「まことに申し訳ない! 私から話しましょう!」
フライングアイが飛び出した。
「フン!」
ライラは苛立って、フライングアイを叩き落とそうとする。
「あたしゃ、アギは嫌いなんだよ!」
フライングアイは、かろうじてライラの手をよけると、静かに言った。
「レイチェルの姿がないことは、私も聞いています」
ライラが、フウッーと息を吐き出した。
一応は聞こうという気になったようだ。
扉をバタンと閉めた。
「私はイコマと申します。日本人です」
「フン!」
「レイチェルが今どこにいるのか、確かなことは分かりませんが、エーエージーエスから救出した女性がレイチェルだと思われます。そうだな、チョットマ」
涙が出てきた。
ライラを馬鹿にしたつもりは毛頭なかった。
しかし、相手を重んじる気持ちも思いやりもなかった、と知った。
自分の聞きたいことだけを聞こうという自分勝手な行動。
たしなめられて、それがよくわかった。
なんでも自分の思い通りになるとは思ってはいなかったが、そうならない場合は自分が未熟だからだ、と思っていた。
それは違う。
今、初めてわかった。
自分の未熟さはもちろんのこと、周囲の人に対する敬意もなかったのだ。
だから、成し遂げられなかったのだ。
己の愚かさが、これほど身に染みたことはなかった。
惨めだった。




